KAC20241+ 世界の終焉を救うのは一匹の犬、コロだった。

久遠 れんり

第1話 闇が被った世界

 ある日、それは始まった。

 地球を包む闇。


 それが収まったとき、世界は気温の低下と共に、モンスターが跋扈する世界になっていた。


 日数と共に少しづつ明るくなり、人が外に出る。

 そこには、過去絶滅したはずの動物が、モンスター化して復活をしていた。

 まるで星の記憶を読んだかのような、ただおとぎ話に登場したモンスターまで実体化をしていたので、それだけでは無く、人の恐怖が具現化した物もあるのかもしれない。


「おい、電気が止まったぞ」

 住民はおびえながら、カーテンをそっと開けて、窓から外を覗く。


 空を翼竜のような生き物が飛び交い、地を這う車に火を浴びせかける。

 加熱されたリチウムバッテリーだろうか? 道路で火柱が上がる。


 一週間程度暗くなり、十度くらいの気温低下で収まったのは僥倖ぎょうこうだが、アフリカなどでは、牧草となっていた草が枯れ始めていた。


 そして、それは、悲劇を発生させる。


 大型の草食動物が餌を求めて移動を始める。

 だがそれは、単なる移動ではなく、半ばモンスター化した群れ。

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。


 道路を走る車を潰し、張り巡らされた金網を倒し、事もなげに都会へと突入をする。

 その時から、アフリカの都市で、地獄が発生する。


 弱い家屋はあっという間に潰れ、強いはずのビルでさえ、幾度も激突されて、崩れ始める。


 水場は荒らされ、畑はすぐに食い尽くされる。

 群れは合流し、大きな流れとなり大陸中を荒らしていく。


 アフリカ側では、支援が来なかったのを不思議に思っていたが、同時期ヨーロッパは別の問題が発生していた。


 伝説上のモンスター、トロールやオーガが暴れ回り、死霊どもが雄叫びを上げる。


 地獄の門が開いたのだと教会関係者が騒ぎ、軍が走り回る。

 モンスターが突っ込んだ水源は腐り、土壌までダメージを受ける。


 町には戒厳令が敷かれて、戦車が走り回る。


 陽光の下、不死人が歩き回る。

 終わってしまった世界。


 それは何処も一緒だった。

 カタコンベでは、スケルトンが蘇り、自身の首を求めて徘徊をする。


 そんな希望もない世界。

 絶望が支配をする。


 期待した勇者もおらず、極東の国では、逆に勇者召喚をしろと掲示板が荒れる。


 警官はすぐに物の怪との戦いで、支給された弾薬がつき、自衛隊が日本中に派遣される。

 

 連日国会で、物の怪に対しての対応が協議されるが、ぐるぐる回り話は進まない。


 つまり、実質守れない国民。自衛手段を許可すると、犯罪に使用されたとき誰が責任を取るのかその話が必ず出てくる。

 かといって認めないと、国民は無手で殺されていく。


 果ては、防衛予算をこんなにケチったのは誰だという議論まで。

 お前たちだろう。そんなことばかり。


 議論が繰り返されている頃。対してアメリカは元気だった。


 大義がある。

 みんなを守る。


 国が安く銃弾を支給し、モンスターなど居なくなれと言わんばかりに、銃弾がばら撒かれる。


 夜間でも、マズルフラッシュが町中を明るく照らし、炸裂音が鳴り響く。


 多少、誤認や跳弾で被害者が出ているようだが、ほとんど問題にならない。こんな時に出ているのはホームレスだと。


 

 そんな折、日本のある家で、悲しみに暮れている男がいた。

 石井信介いしい しんすけ。二年ほど前に飼い始めた犬がモンスターに驚き逃げてしまった。

 雑種だが、黒い毛並みと、くりっとした目。もふもふとした毛。多少それに対して無骨な足で、来た当初はコロンコロンと転がっていた。

 たまに、首をかしげる仕草が、とてもかわいい犬だった。


 家に来たときには、まだ子犬でコロコロしていたから名前をコロにした。

 お父さん達が、『本当にそれで良いのか?』 と、聞いてきたが僕は譲らなかった。


 だが、すぐにスマートになり、コロの体型はコロではなくなった。

「やっぱり」

「良いんだよ。コロはコロなんだから」

 そう中学校二年生の僕は拘った。


 本当は、地獄の猟犬ヘルハウンドとか冥府(めいふ)の番犬ケルベロスとか付けたがったが、イメージが違った。


 そんなコロは大冒険中。

 家から出てすぐに物の怪達に揶揄われ、そいつらを相手に勝負をする。

 自分の中に狩猟犬の血でも混ざっているのか、物の怪ハンティングは楽しかった。

 確かに最初は怖かった。

 甘やかしてくれるご主人信介も居ない。


 倒せそうな小者から、徐々に大きな物の怪へと対象を変えていく。


 道中で見かねた人が、食べ物をくれたり、追われたネズミや兎。

 野生を取り返し、体はレベルアップから進化をしていく。


 そして、半年もすると無敵になってきた。


 海辺で、うち捨てられていたボートに乗り込み寝ている間に、満潮により流される。


  一週間ほど漂流したコロだが、体は丈夫で、浜辺へと降り立つ。


 日本とは違い、こちらではモンスター達が隆盛を誇り、我が物顔で闊歩している。

 様子を見るが、こちらが強いと判断して、ボスだった奴を襲う。


 周囲を守る奴らはタイミングを逸したのか、呆然としている間に倒してしまう。

 首を切り裂いたときに、口へと流れ込んできた血は甘露で、つい夢中で喰らってしまう。


 すると体は一廻り大きくなり、炎を使うことが出来るようになった。

 最初は自分で怖々使ったが、なんとなく頭の中に情報が流れ込んできて、自分に対しては影響を及ぼさないことを理解する。


 そして周りに居た取り巻きは、躊躇無くコロに付いてくる。



 第2話へ続く。

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