3分の捕物競争
野林緑里
第1話
弦音には3分以内にやらなければならないことがあった。
それはいま目の前に用意されている武器を選ぶことだ。
武器というのは8つ。
長刀
短刀
弓矢
槍
礫
手裏剣
薙刀
扇子
その8つの武器からひとつを選んで3分以内に取りに行くだけだ。弦音から武器までの距離はだいたい五十メートルぐらい。
走れば一分もかからない距離なのだが、その間には多くの障害がある。その障害すべてをクリアしてたった一つの武器をもって戻ってくるのだ。
障害というのは登ったり降りたり飛んだり、平行棒の上を歩いたりという運動会の障害物競走でありがちなものもあるのだが、厄介なのは最後辺りに妖怪が潜んでいることだ。
妖怪や怨霊というものとの対峙というのは祓い屋にとっては得意な分野なのだが、まだ祓い屋になって間もない弦音には容易なものではない。
武器を守るようにいる妖怪の名前はよく知らないが厳つい顔立ちはいかにも強そうに見える。果たしてなんの武器も持たない弦音が妖怪を退けて3分以内に武器を手にすることができるのだろうか。
というかそもそもなぜ弦音が武器を手に入れるために障害を乗り越えなければならなくなったかというと、簡単にいえば乗せられたからだ。
祓い屋の店長をしている土御門桃志郎におだてられてしまった弦音は思わず今回の武器とり合戦に参加すると表明してしまい後戻りできなくなってしまったのだ。
もちろん参加者は弦音だけではない。
見たこともない祓い屋が弦音の隣に何人も並んでいる。
誰もが何故か意気込んでいる。
「なあ。なんかすごく張り切ってますよね?」
弦音の後ろにいた同僚の有川朝矢に話しかける。
彼もまた参加者だ。
「そりゃあ、そうだろう。この競技で手に入れた武器はそのまま自分のものになるからな」
「そうなんですか?」
「そういうことだ。少しはやる気はでたか?」
「出るわけ無いです! つうか、有川さんがなぜ出場するんですか? 武器持ってますよね」
「うるせえ! 」
弦音が尋ねると不機嫌な顔をした。どうやら彼も店長におしきられたようだ。
「では始めます。3分以内に武器をゲットしてくださーぃ」
桃志郎の陽気な声が聞こえる。
「位置についてよーいどん!」
ピストルの合図とともに弦音を含む参加者が走り始めた。
3分の捕物競争 野林緑里 @gswolf0718
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