告白の罰ゲーム KAC20241

ミドリ

告白

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 告白だ。


 と言ってもこれは、仲間内で賭けていた「テスト結果が一番低かった奴の罰ゲーム」であって、本当の告白じゃない。


 期限は、テスト結果が出た今日の昼休みの終了を告げる鐘が鳴る前まで。そこまでにクラスの陽キャイケメン羽鳥はじめに告白しなければ、賭けに参加したメンバー十名全員にファミレスでメシを奢らないといけない。


「あいつら絶対ここぞとばかりに食うからな……!」


 男子高校生の食欲は、ヤバい。特に運動部に入ってる奴らの摂取量はえげつないほどで、俺の大して多くない小遣いが一瞬で吹っ飛ぶのは目に見えていた。というか、確実に足りない。借金生活まっしぐらなんてごめんだ。


 つまり俺は金と恥を天秤にかけ、恥を取ったということだ。


 羽鳥はいつも、女子に囲まれている。あとは、同じ陽キャ男子。どいつもこいつもまあモテている。俺たち、所謂特徴が特にない平凡男子高校生とは明らかに立っているステージが違う。つまり近付きにくい。


「あーもう、どこにいるんだよっ!」


 テスト前に「やる気を出す為に賭けをしよう」という話になり、ファミレスで全員に奢る案が出た。だけど、中には俺と同様に万年金欠組もいる。そこで代替え案として提示されたのが、モテイケメン羽鳥に告るというものだった。


 理由は「あいつならさすがに冗談と受け取ってくれるだろう」っていう、ちょっぴりビビりな俺ららしいもの。だってさ、マジに受け止められたら困るじゃん?


 ということで、残念ながら僅差でビリになった俺は、女子に連れられてどこぞへランチに行った羽鳥を探しまくっていた。


 が、どこにもいねえ! ふざけんなおい、俺まだメシも食ってないんだぞ!


 で、賭けをした奴らが囃し立てる中、俺は羽鳥を探して探して――見つけた。


「……羽鳥! いたあああっ!」


 三階の渡り廊下を走っていたら、校庭から校舎に入ろうとしている陽キャグループの塊を発見したのだ。羽鳥は頭ひとつ分高いから、すぐに分かる。


 校庭に立てられた時計を見る。あと二分。呼び止めて裏に連れ出して告白する余裕は――ねえ!


 俺は覚悟を決めて、すーっと息を吸い込んだ。


 言うは一時の恥! ファミレス十人分は間違いなく万超え!


「――羽鳥!」


 俺が叫ぶと、羽鳥は立ち止まってくれた。やった、聞こえた。キョロキョロした後、何故か笑顔になって俺に手を振る。


「佐藤、どーしたー?」


 席が隣のせいか、羽鳥は俺に親しげに接してくる。女子の目が怖いからあまり近付かないようにしてたけど、いいヤツなんだよな、基本。


 ちょっぴり悪いなあと思いながらも、出せる金はない。


 俺は覚悟を決めて、大声で言った。


「羽鳥! 好きだー! 俺と付き合ってくれー!」


 直後、しん、と辺りが静まり返る。


 全員が、俺と羽鳥を交互に見ていた。


 羽鳥が、何故かにこーっとして手を振る。


「喜んでー!」

「……は?」


 え、おい、これ冗談の告白……という俺の言葉は、直後に沸き起こった歓声と悲鳴の前に掻き消えた。


 で、後日ちゃんと「これは罰ゲームで……」と本人に謝りながら説明したんだけど、「告白は告白だよね?」と言われて違うとは言えず。


 実はそのまま付き合っている。


 羽鳥は家まで俺を迎えにきて、手を繋いで学校に行く。毎日だ。ちなみに帰りはこれにバイバイのチューが加わる。ランチは二人きりで、羽鳥の膝の上なんだぞ。驚くよな。


 ……その毎日に心地よさを感じている俺は、一体どうしちゃったんだろう。


 羽鳥曰く、「すっごい好みなのに避けられてて悲しいなーって思ってたところに告白されたから嬉しい」んだそうだ。


 なお、今の俺は「今度の週末、うちの親旅行でいないんだ。泊まりにきてよ」と頬を染められながら言われていて、今週末の俺どうなるの!?  て今からドッキドキだ。


 でもさ、最近思うんだよな。


 あの時、残り三分しかなくてよかったのかもなって。

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