命名、おやすみ、追伸

秋坂ゆえ

身勝手な命名、おやすみ、追伸

 その頬にこびりついた素粒子 なんて

 別にウエルベックを気取るつもりもないけれど

 あなたの肌には

 きらきらと光って 凄くきめ細やかで

 思わず触れたくなるような素粒子がコーディングしてあって


 それを『プレストパウダー』だとか『アンチエイジング美容液』だなんて

 世俗的で後天的な人為的なもので表現することは許せなくて

 たとえあの喧嘩好きなミシェル某に訴えられてもいいから

 量子力学の専門家に文句を言われてもまったく構わないから

 

 言わせて欲しい


 あなたの肌には あなたの全身の肌には

 光り輝き人を惹きつけるものが 生まれ落ちた瞬間から

 ここでこうして美しい物体と化した今に至るまで

 そしてこれから未来永劫 誰もが触れたくなる素粒子で溢れていて


 そう、だから


 ただ、独り占めしたかった


 アジア人にしては白すぎて 白人にしては少しだけ桜色が濃くて

 顔の造作などもはや問題ではなく

 きっとシュレーディンガーは怒るだろうけど

 量子力学が 素粒子が 生まれ落ちた場所にして 同時に終着地なんだ 


 殺めてしまったことは もちろん謝りたい

 でもこれであなたは あなたの素粒子は 永遠に光を失わない

 だから 安心してここでゆっくりと 眠っていて

 極光すらも平伏す 

 その美は 

 あなただった物体を抱きしめる この腕の中に ここだけに

 

 だから おやすみ

 レスト・イン・ピースじゃなくて おやすみ

 この腕の中で 

 永遠に



 PS:

 肝心なことを失念していた

 もしこの身体が この両腕が朽ち果てたら

 あなたの美はどうなってしまうんだろう


 それだけが気掛かりだよ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る