第11話

 喫茶ルナのきれいめ店員さんーー岩田真由美さんの実家が、吉祥庵をやっていた事実を告げると、おばさんたちは、こちらが恐縮してしまうほど喜んでくれた。

 

 はじめにひまりに関わってくれた多恵さんは、

「あの土地の前でわたしに会ったのが、あんたの幸運の始まりやな」

と言い、澤田さんは、おじいちゃんに昔話を聞き出す努力をしてみると言ってくれた。


 神原さんと美代子さんは、あんたには祟りはないよと、何の根拠もないのに慰めてくれた。

 あんまり何度も大丈夫と言ってもらったおかげで、ひまりの恐怖心も薄らぐ。

 

 さあ、調査を始めなければ。

 そう思ったとき、多恵さんのひと言に、ひまりは飲んでいたコーヒーにむせそうになった。

「ということや。誰がその富子さんのところへ行ける?」

「誰がって」

 ひまりは呆然と多恵さんを見た。

「あんた一人で行くのは無理や。知らん土地やし、相手は意地悪ばあさんやろ?」

「そうやな。ひまりちゃん一人で行かすのはかわいそうや。ひまりちゃんは、荷物もあることやしな」

 澤田さんがそう言って、ひまりの小ぶりのスーツケースを見る。

「わたしも行く。方角がええからな」

 神原さんが続いた。

「わたしも行かせて。まだうちに帰りたくないし」

 美代子さんまで言い出す。


「ちょ、ちょっと待ってください」

 ひまりは全員の顔を見回した。

「一人でだいじょうぶです。なんたって、わたしは」

 続きの言葉を、四人の八つの目が待つ。

「わたしはこれが仕事なんですから」

 途端に、あはははと笑い声が起こった。多恵さんだ。

「あんた、吉祥庵があった場所だって、見つけられんかったやないか」

 そう言われると、返す言葉がない。


「金華橋の近くなら、バスが出とるな」

 神原さんが、言い出した。

「そこの角から出とるよ」

 美知子さんが、窓の向こうの交差点を指差す。


 それからおばさんたちは、言いたい放題となった。

 二百円もあれば行くだとか、駅を経由すると遠回りだとか、だったら柳ケ瀬とを通るバスのほうがいいだとか。

 どうにでもなれと、ひまりは思った。付いてくると言うなら、そうして下さい。そのほうが、自分で金華橋行きのバスを調べる手間も省ける……。


「ほな、行こか」

 誰ともなしに席を立って、ひまりはおばさんたち四人といっしょに、真由美さんのおばさん、富子さんの家へ行くはめになった。



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