俺は年下が嫌いだ

@_ashtrayx3

禍々しい頭の中

俺は年下が嫌いだ。そいつがどんな生き方をしているかなんて関係ない。真面目ちゃんもパリピも総じて嫌い。なぜこの感情を捨てきれないのか自分でも分からないし、下らないものに取りつかれているなとも思う。ただ一つ、明確に言えることは、この邪悪な感情は高校を卒業してから日に日に増しているということ。


現役時代に俺は大学受験に失敗している。最初はこれが原因だと思っていた。だが違った。一浪してなんとか成就したが、一向にこの感情は冷める気配を見せないからだ。周りは着々と進学への準備を進めているのに、自分だけライフステージを上げることができない。そんなことに劣等感でも感じていたのではと思っていたが、そういうわけでないのならば、何がここまで癪に障るのか。単純明快。それはただ純粋な、嫉妬である。


この答えにたどり着いたのには理由がある。それは俺が鈴木福と芦田愛菜が嫌いだということ。彼らは俺と同い年だ。初めてテレビで見たのは...今から十年も前になるかな。当時はマルマルモリモリというテレビドラマが流行していた。その主演の内の二人が彼らだった。そして今、相も変わらず二人とも画面の中でキラキラしている。ああ、分かっているさ。俺はあくまでメディアを通してでしか彼らのことを見ていない。凡人には計り知れない努力をしてきただろうし、プロなりに理不尽な経験や辛い経験を乗り越えてきたはずだ。彼らはされるべくして、世間様にチヤホヤされているのは百も承知。本当に気に食わない。同じ時間を過ごしてここまで差ができるのだから。例えばこれで、二人が俺より一回り二回り年下だとしよう。きっと俺は邪悪な感情に飲まれて気でも狂うのだろうな。俺より短い時間を過ごしているのにもかかわらず、その中で質の高い努力をし、質の高い結果を得れた、ということになる。同い年なだけまだましなのかもしれない。


インターネットの発達には感謝している。こんな駄文を世界中にさらけ出せるし、娯楽も知見も豊富だ。ただその代償というべきか、自分より優れている人間を見る機会が増えた。それはもう意図的に調べずとも、見せつけるかのごとく大量に視界に入ってくる程に。目障りで仕様がない。学生起業家が大成?ギフテッド?辞めてくれ。頭がおかしくなる。まるで俺が、俺の人生が、不完全かのようではないか。


ここまでをまとめると、俺が劣等感を抱いている相手が年下ではなく、優秀な人間に見えるかもしれないがそうではない。前述した通り、年下で大成している奴への嫉妬心は掃いて捨てるほどあるが、そうでない連中も大概だ。特に学生。彼らは俺がこの先、何十年という時を過ごそうが絶対に年下というこの世の定めがある。数十年も生きればいきなり化ける奴が現れることも考えられる。彼らは可能性の塊なのだ。そして、俺も今年で成人を迎える。もう中高のように学生服に袖を通すことはできなくなってしまった。羨ましい。羨ましくもあるが、懐かしくも感じる。イチャつくカップル。友達と馬鹿話。校則を破ってバイト。学生特有の、いや、何と言えばいいのだろうか...そうか、青春か。もう俺は戻れないのだな。昔は子供は不自由だと嘆いていたものだが、いざ二十代へと近づいていくとこの上ない不快感に苛まれる。俺はまだ子供のままでいたい。気楽な日々をもう一度送りたい。


おそらく俺は、もう一度一から人生を歩めたとしても、今と同じ結末になるだろう。一丁前に成功者や年下に嫉妬心を燃やすが、それに見合った努力も、年下が気にならないくらい今を楽しもうともしないはずだ。改めて、なぜこんな下らない考えを捨てきれないのか。ただただ生きにくくなるだけなのに。幸いなのは俺がこの思想を、他の人の前でイキってひけらかさないこと。ドン引きされることは目に見えて分かるのでそこは自分を褒めたい。もしかしたら俺は自分の学生時代を満足に過ごせなかったのかもしれない。確かに、思い返せば改善できる部分は少なくない。四月から俺は大学生だ。もしこの仮説が正しいのならば、第三の学生生活は悔いが残らないように過ごさなければならない。さもなくば、今よりひどい捻くれ者になっているかもしれないからな。


fin


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