へっぽこ占い師

@ku-ro-usagi

読み切り

友達が占い師やってる

元々少し視えるらしいけど

「それだけじゃ全然駄目なんだよ」

と勉強熱心で

実際占いは生涯勉強だと聞いた

飲む度に

幸せな人は占いには来ないから

幸せな人が多そうな

ケーキ屋さんとか

お花屋さんとかやれば良かった

と愚痴るけど

この友人が

お菓子作りの才能がないことも

茶色い手なことも知っている

(茶色い手=植物枯らす手)

客はやっぱり不倫系の相談が多いらしい

しかし

不倫ドロドロ系は

一人話を聞くだけでも

吸引力が売りのダイ◯ソンどころではなく

バキュームカーのように

ぎゅんぎゅんとこちらの精気やら何やらを吸われて消耗するらしい

言葉を操る者は思えぬ例えの汚さよ

たまに男の人も来るらしいけど

今にも死にそうな顔しての相談内容が

「付き合った彼女が処女じゃなかったんです……」

だって

「インテリアで置いてるデカい水晶で

そいつの頭ぶん殴ってやろうかと思った」

と言ってて笑った

女性客は女性客でさ

正直に

「その人とはうまくいきませんね」

って言えば

「インチキ!」

って叫ばれるから

「うまくいきますよ?」

って嘘吐けば

後で

「フラれたじゃない、インチキ!」 

どっちにしろ罵られるって

うん

君は

占い師に向いてないんじゃないかな

「あなたと彼の星の位置が急に変わったんですよ〜!

きゃ〜びっくりですぅ!!」

とか適当に言っときゃいいんだよ

占いなんかに金落としてる時点で

その恋だか愛だかは終わってるんだから


そんな友人は

早く老けたいと言う

箔が付くし説得力が増すからと

日々

「アンチエイジング」

を合言葉にしている私とは相容れることはなさそうだね

無駄に仕事熱心ではあることは認めるけれども

そんな友人はどんな同業者でも

絶対

「インチキや偽物」

とは言わない

人によって視えているものは違うからと

優等生め


そんなことを考えていたら

待ち合わせにしていた飲み屋のテーブルに友人が着いた

「おまたせ、ごめんね、長引いちゃって」

「お疲れ、優等生」

「何?」

何でもありません

「今日はどうだった?」

「美容師さんが来た」

おや

とりあえずビールでなくハイボールで乾杯

ここだけの話で友人は色々話を聞かせてくれる

あくまでもここだけの話ね

「えっとね

その美容師さん

シャンプーしてたり髪触ってたりすると

その人の背景みたいなのが見えて困ってるって」

君より才能ありそうだ

「それ言わないでよ、私だって思ったんだから」

思ったんだ

「うん

それ聞いた時に思い出したんだけどさ

エステティシャンの人も

直接お肌に触れるでしょ?

だからお客様から色々当てられちゃう人もいるって」

それはまた難儀なものだね

どうするのかと思ったら

日本酒とかお塩とか

一般的なお清めに使われるものを入れたお風呂に浸かるのがいいらしい

なるほど

友人は

「断然アロマ派、お酒は勿体ない」

左様で

「話逸れた、本題はそこじゃなくて」

うん

「その美容師さんね

そのお客さんが人を刺してるのが視えちゃったんだって」

ええー……

「でしょ?もう私がどうこうできる話じゃなくてさ」

確かに

「それでどうしたの?」

「……その美容師さんの金運見て終わった」

ビビりめ、本題と向き合わずに逃げたな

「ま、リピートはなさそうだね」

確実に

「わかってるよ!!」

怖い怖い

逆ギレ反対


こんな風に

この難儀なへっぽこ占い師と飲む時

私が全額持つ代わりに友人は私を視てくれる

昔は全然だったけれど

今は私の波長?か何かと合わせやすくなったと友人は私と目を合わせる

周りがうるさくても友人には問題ないらしい

今日はテーブルに置いた私の手に手を重ねてきた

「何か視える?」

「えっとね、うん……なんだろ、何か少し固まってる」

固まる?

「ゼラチン?」

「茶化さないでよ、腕を強く掴まれてる」

誰に

「多分私」

お前かよ

呆れて見せたけど

友人は笑いも怒りもせず私の服と自分の服を見下ろして

「これ、最短の未来だ」

こんなの初めて、と呟く友人

別の場所で

例えばベッドの上で聞いたら興奮するのにね

「他には何が視えるの?」

友人は

「君の腕にしがみついて何も」

どうやらろくな未来でないのだけは分かる

なんだか酔いも覚めてしまい店を出ると

少し駅から外れているけれど人通りの多い大通りは賑やかで

「今の所は何もなさそうだけど」

「うん……」

友人の予知が外れてくれるのが一番いいんだけれども

駅まで向かうと

女の金切声と宥める男の声がした

駅前で派手に痴話喧嘩中らしい

男の隣には別の女がいて俯いている

キーキーと蝶番に油塗ってない系ボイスは酷く耳障りで

思わず眉を寄せると

友人が私の腕を掴んだ

「何?」

「……あの人、さっきの美容師さん」

「は?」


友人が凝視しているのは

金切女ではなく

男の隣で俯いているまだ若そうな女の子だった

私が友人に問い掛ける前に

「どういうつもりよ!!」

と金切声が一層駅前に響き渡り

その瞬間

友人曰く美容師の女の子が

肩から掛けていたバッグから

何かキラリと反射するものを取り出した

注目を浴びていたため

「えっ?」

「嘘っ」

周りからもそんな声は聞こえたけれど

私も勿論友人も動けるわけもなく

美容師が女の腹辺りに

身体ごと突っ込んでその頑丈そうなナイフを突き刺した

そんな惨事を

ただ突っ立って見ていることしかできなかった

友人は小さく悲鳴を上げて私の腕に顔を埋めて動かない

確かに占いは当たった

的中率100%

御見事


しかし

どういう事なのか

結局

「人を刺す姿」

は客でなく自分だったと言うことか

ううん

未来でもない

あの女の子が決めていたこと

成功するイメージを客に投影していた?

イメージトレーニングだっけ?

そもそも本当に美容師なのか

そう問い掛けてみても

「わかんないよぅ」

と半べその友人

ですよね

少し離れた場所で

倒れたキーキーボイス女に馬乗りになり

まだナイフを突き立てようとする自称美容師に

それを止めようとする男と周りの人間

大騒ぎだ

もうすぐ警察と救急車も来るだろう


うん

でも

そこじゃないよね

友人が半べそかいてるのは

でっかい剥き出しのナイフをバッグに忍ばせて

人を刺すイメトレをバチバチにキメてた客と

個室で2人きりだったんだから

そりゃビビるよね

正面から向き合わずに金運に逃げたのは正解だよ


結局

もうこれっぽっちも飲んだ気になれず

私の部屋で飲み直ししながら適度に酔い

「でもさぁ私のさぁ

『リピートはなさそう』

は当たったねぇ

当分来ないよ、良かったねぇ」

とピースしたら

「うるさい」

と睨まれた

あらやだ今夜は冗談が通じない


そのままなぜか説教モードに入る友人が面倒になり飲ませて潰す

割りとすぐにまんまと酔い潰れてくれた友人をソファーに寝かせてから

もう一杯

チビチビ飲みながら私は思うんだよ


本当にろくなもんじゃないねって


占い師も

占いに頼る客も

どっちも


勿論

そんな友人の話を嬉々として聞く自分もね








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