【閑話】マリウスside:やっぱり猫が好き


 犬より猫が好きだ。

 ちっちゃくて、柔らかくて、ぐんにゃりして、つんとして、つれなくて、とらえどころがなくて、なのに、こっちが忙しい時に限って構われたがったりして、一旦そうなると絶対に引かなかったりする。そんなところが、全部良い。あの可愛らしい生き物に振り回されるのは快感ですらある。


 ……けどな?




 西日のさす科学準備室、放課後ここで人を待つのだと言うクリスタに付き合っていたのだが、誰もやって来ず。自分で言い出したくせに、だんだんと飽きてきたらしい。

 二人がけの狭いソファに仰向けで寝転がる俺の上に寝そべって、クリスタはクラスメイトの愚痴を零していた。


「……ということがあったのですが、マリウス様はどう思います?」


 どう思うもこう思うも無い。この状況の意味が分からない。


「クリスタ……」

「はい」

「クリスタは昨日、結婚するまでもう、ことはしないと言ったな」

「はい」

「俺は反省した。決してクリスタの身体だけ好きなわけではないのに、そう思われているのではと、そう思われても仕方ない行動を取っていたのではないかと、猛省した。クリスタに触れないのは嫌だが、嫌われるのはもっと嫌だ。我慢する。我慢してみせる! そう決意するのに一晩まるまるかかった。おかげで寝不足だ」

「ああ、それで遅刻を」

「そうだ。それで遅刻したのだし、今こうやって寝そべっているわけだ。いや、それはどうでも良い。俺はさっき、決意を表明したな? クリスタが学園を卒業するまで、一年と数ヶ月、待つと。待ってみせると」

「はい。とっても嬉しかったです」


 俺の胸の上で物凄く良い笑顔をしたクリスタが、伸び上がって、喉仏にちゅっとキスを落とす。脚先から頭の天辺に向けて、ゾワゾワと電気が走った。


「ぐうう…… なんなんだ? 俺を試しているのか? しないと言ったらしないぞ。誘惑にはのらない!」

「はい。信じています」

「ええと…… 触るだけならありってことか?」

「無しです」

「なんでだよ!」

「私は触りますよ。マリウス様は、駄目です」

「どういうことだ?」

「触るだけじゃ終わらないでしょう?」

「……まあ、そうだな」

「私、本当はこんなふうにしたかったんです。マリウス様にいっぱい触りたかった。でも、触るとすぐそんな雰囲気になってしまうから、諦めてたんです。決意表明、嬉しかったです。これで安心していっぱい触れます」


 そんな酷いことを言って、首と肩の間に顔を埋める。息が、首にかかって擽ったい。助けろ。


「抱き締めるだけ、いい?」

「駄目です」

「クリスタ…… 触るのは良い。してくれて構わない。いや、してくれ。しかし、だ。俺の手を縛ってからにしろ。辛い」

「そうですか? では、次回からそうします。今日は縛る物が無いので気合いでお願いします」


 耳に流し込むように言って、ついでみたいに耳朶を噛む。


 クリスタは猫に似ていると思う。この可愛い生き物に振り回されるのは、快感だ。



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