転生取り巻き令嬢AとBとC


 ◇


 社交界デビューを迎えた私は、たぶん、他のデビュタントたちよりも上機嫌だった。だってその場には、幼馴染であり、学友であり、絶対的なボスである、悪役令嬢エレナがいなかったから。


 この国では、普段は満年齢を使っているが、デビュタントなどの節目の行事は、数え年で区切られるのが習わしだ。エレナは同じ学年ではあったが、早生まれなので数え年では私より一才下になるのである。


「私だけ除け者なんて!」


 と、前日もプリプリ怒っていたエレナには悪いが、正直、怖いボスから解放されるこの一日を、私は、めちゃくちゃ待ち焦がれていた。

 だって、物心ついて、自分が前世で読んだ小説の取り巻き令嬢Cだと気付いた時には、既に目の前に悪役令嬢のエレナがいて、「これ、可愛いから私のね」と、私の人形を片手にどこぞのジャ●アンみたいなことをのたまっていたのだ。


 その日からひたすら、自己主張の強いエレナに奪われ、からかわれ、パシリとして使われ続けてきた。

 アリアナ、ベアトリーチェが取り巻きに加わったのは、学園に入学してすぐだった。それからは、三人四脚でエレナの我侭を受け止め、腰巾着を勤めてきた。


 でも、この日は、この日だけは、エレナに邪魔されたくなかった。だって、一生に一度の、社交界デビューの日だもの!


 デビュタントのドレスコードである春色のドレスに身を包み、エスコート役のよく知らない子息に手を引かれてフロアに入り、踊り、この日に解禁となったお酒を少しだけ嗜み、同じ境遇の友人二人と日頃の労をねぎらう。束の間の自由だと分かっていても、楽しかった。


 そして、浮かれた私は、友人たちが席を外した隙に口ずさんだ。前世で大好きだったこの小説がアニメ化された時の、第一期のオープニング曲を。


「ふんふんふー、ふふふふふーん、ふーん」


 その時だ。


「……ふん、ふふふふふーん、ふん、ふん、ふーん」


 私のハミングに、被せてくるハミング。はっと顔を上げると、取り巻き令嬢A、豊かな黒髪をルーズに三つ編みしているのが特徴のアリアナが驚愕といった顔でこちらをじっと見ていた。え?! まさか!?


「ふんふんふー、ふふふふふーん?」


 これはどう? と問うように続ける。


「ふんふんふふふー、ふふふふふん!」


 勿論、知ってるわよ! と言うようにアリアナが応える。


「きゃーーー!! なんで!?」

「まさか、あなたも!?」


 思わず手を取り合って、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。涙が出るくらい笑い、二人で盛り上がって、そのまま、今度はエンディング曲をハミングで歌い出した。そして、一曲歌い終わるというその瞬間、 


「『転生ヒロインは性悪令嬢も魔王もスキル超腕力で捻じ伏せる』は、ご覧の提供でお送りしました」


 と、これまた聞き馴染んだ口上が被さってきた。まさか!? 私とアリアナは声がした方へ顔を向け、一瞬にして理解した。


「ベアトリーチェ!!」

「嘘でしょ!?」

「なんなの二人とも! 早く言ってよぉ!」


 甘えた声を出すのは、ダンスから戻ってきた取り巻き令嬢B、榛色はしばみいろのくるくるしたくせっ毛の小柄なベアトリーチェだ。

 私達は三人で円陣のように手を取り合った。それからはもうずっと、男性からのダンスの誘いも断って女子だけで大盛り上がり。


 だって、信じられない。こんなに近くに仲間がいたなんて。学園に入って丸二年、いつも一緒にいながら気付かなかったなんて。




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