【38】選択肢のカタログ!?

 城に戻り俺が目を覚ましたとき、俺はマイムの作った回復スキルである泡の楽園パラディバブルに包まれており、妻や子供、それに仲間たちが俺を囲み心配そうに見ていた。


「どうしたんだ?

 なぜ皆、心配そうに見てるんだよ」


 そう言うと妻が泣きながら話してきた。


「あんた20日も眠ったままだったし、首の骨も折れてたのよ……死んじゃうかと思ったじゃない……」


「そうか……すまなかった。

 なるほど、あの一撃で俺は致命傷を与えられてたのか。

 まだまだ勝てそうにないな」


「あんたまさか、またオスクリダドと戦ったんじゃないでしょうね!」


 ハリネズミが慌てて騒いでいる。


「ああ、そうだ。

 マイム、もう大丈夫だ。これ、外してくれ」


「うん。皆心配するんだから、もう無理はしないことだよ」


「分かってる。ありがとな」


 この5年でマイムはジェンノ王国で王族専門のドクターにまで成長していた。

 やるじゃん!ドクターマイム。


 俺はマイムが管理する、そうだな……現代医学で言う集中治療室を後にし、レーニアと子供たちと一緒に自室へ戻って行った。


「もう!なんであんなに無理するの!?

 あなたにもしもの事があったら子供たちはどうするつもりだったの?国は!?私は!?」


 心配と激怒の為、捲し立てるように喋るレーニア女王。

 まぁ妻なんだけどね。


「大丈夫だよ。まぁ確かに心配は掛けたと反省はしているよ。

 だがアイツも死なない程度に手加減してくれての仕合いなんだから、命に関わることはないよ」


「それでもよ!それに私はあなたのサポートを何もしてあげれてない。

 私ばっかりもらってばかり。

 私にも出来ることないの?」


「レーニア、君は俺の妻でありフィリックス達の母親である前に女王だ。

 今は魔王軍だけに関わらず、各地で戦争の火種が大きくなり間もなく大炎を巻き起こすだろう。

 その時に、勇者兼国家のトップが不在では国はもちろん、人間界が危うい。

 すまない……君は今のままで居てくれ

 俺のやろうとしてることに残念ながら手伝えることはないかな」


「こういうとき、本当にキアへ嫉妬しちゃうわ」


「キアは俺のシステムみたいなもんだから、元々生まれながら体の一部だからなー」


「それでも、何時もあなたと一緒で羨ましいって思っちゃうわ」


「すまない」


「ううん。謝ってほしいわけじゃないの」


「主、陛下、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」


「ん?ああ」


「ええ、お願い」


「では……主がこちらの世界に転生するときに、私はこの世界の神に”2つ”の任務と使命を与えられました。

 1つ目の任務とは人間として人類最強にすること。

 2つ目の使命が、生涯に渡って主を支え続け共に生きる事です」


「って言ってたな。っで、その際の自身の状態は問わないって事だったよな?」


「その通りです。ですので陛下、私はあくまでも主の体の一部に過ぎません。

 ちなみになんですが、一応は主たちのチョメチョメ時はスリープモードに移行するという、ちょっとした気遣いはしてますよ」


「わーーー!!!言わないでよ!恥ずかしいじゃない!キアのバカ!」


「お前ってさ、こういう所は無機質な回答をするよな……本当に」


「さて、主。

 突然ですが本題に入ってもよろしいですか?」


「あ、うん」


「主が進むべき選択肢についてお話があります。主は既に現時点で人間、つまりヒューマンとしての生存活動は終了しております。

 もし、まだヒューマンとして生きていれば、ロストの一撃で即死していたでしょう。

 今回主の首は粉砕されてましたが、戦いのあとに一服までしてました。

 普通は即死で線香をあげられる状態です」


「え!?ザハル、粉砕してたの!?

 マイムから首の骨が折れてるとしか聞いてなかったけど……マイム!説明しなさい!」


「あ、うん。僕のところに来たときには折れてはいたけど、粉砕はしてなかったんだ」


「それは主の驚異的な回復力です。

 今の主はダメージも負いますが、致命傷が大きい箇所から瞬時に回復が始まります」


「それって僕いらなかったじゃん」


「いいえ。マイムの回復スキルは精神体である主の体にも非常に有効なのです。

 回復力の促進になりますので、感謝してますよ」


「本当だぞマイム。お前には何度感謝したことか分からんよ」


「うん。それならよかった。

 でも、本当に無理しちゃだめだよ」


「ああ」


「主、ここから本題に入りたいのですが……」


「わかった。場所を変えるか?」


「実際に変化をするときは危険を及ぼす可能性があるので、私と主のみになれる空間がよろしいかと」


「またどっかにいくの!?

 って言っても止まらないと思うから、何をするか理由だけ教えて。

 ザハル……何をするつもりなの?」


 不安そうに俺の顔を見上げるレーニア。

 今回は話さねばなるまいな。


「うん。少し話そうか、レーニア。

 皆、席を外してくれ。マイム、子供たちを頼む」


「うん」


「レーニア、今まで不安な思いをさせてすまなかった。

 前回話した通り、俺はもう種族で言えばヒューマンではない。何にでもなれる、ただの精神体でしかない。簡単に言えば何の器にも入れていない魂そのものと言ったほうがいいかもしれない。

 別に死んでるわけじゃないぞ。

 オスクリダド当主のロスト曰く、俺はどうやらここに来た理由は超越者として何かしらの行動を起こさなければいけない立場らしい。

 そのためには俺自身を覚醒させないといけないんだ。

 話してなかったが、今の俺のレベルは1,000を超えている」


「1,000!?こんなレベルの上がりにくい世界で、何の加護もなく!?」


「そうだな。加護は何も受けてない。

 受けているとしたら、それがロストの言う超越者ということなのかもな。

 だからといって超越者になって何をしなきゃいけないのか、何を求められてるのか何も知らないし、ぶっちゃけ興味もない。

 だけど、生まれながらに長寿が約束された身体ならば楽しい生涯にしたいだろ?

 だから俺は今自分が出来ることと、やりたい事をとことん突き詰めようと思ってるんだ。

 その過程で発生した、言わばイベントみたいなものが、俺自身を覚醒させるということなんだ」


「覚醒させたらザハルがザハルじゃなくなったりしないよね?

 そんなの嫌だよ!」


「レーニア、さっきも言った通り俺は今、魂そのもので動いてるんだ。器を手にした所で俺は俺で何も変わらんよ。

 安心しな。

 必ずいつもの俺でレーニア・ジェンノの夫、ザハル・ジェンノとしてしっかり帰ってくるよ」


「本当に帰ってきてよね。信じてるからね」


「ああ。間違いなく。

 レーニア……愛してるよ」


「私も……」


 コイツに孤独な思いはさせられない。

 させたくない。

 俺は嘗てなく強く思ったのである。


「キア、スリープモード解除」


「スリープモードを解除します。

 主、お話は終わりましたか?」


「ああ」


「それでは参りましょう」


「じゃあ、ちょっと行ってくるよ。

 フィリックス、ママを頼むな。

 マイム、クラーヌ、何かあればキアに知らせてくれ」


「うん!任せて!

 僕はママの騎士だからね!」


「ははは、心強い」


「いってらっしゃいザハル」


「ザハル、城の事、陛下のことは任せておけ」


「ああ、頼むな」




 そう言い残し俺は一旦81階層まで転移した。


「キア、一旦91階層まで行っていろいろ試してみよう」


「承知しました」


 当然と言えば当然なのかもしれないが、レベル1,000にまでなってしまった俺に敵う魔物やダンジョンボスは居らず、何もすることなくメストをダダ漏れにするだけで死体の山が築かれていった。

 強そうな奴や、マイム達の研究材料になりそうな魔物・素材は勿論回収していき、こともなく91階層に到着した。


 多分ここからはレベルが2〜300程ないと通用しない世界だろう。

 実にちょうどいい。


「キア、ここで始めよう」


「承知しました。では、まずはこれを見てください」


 そう言うと広辞苑クラスの大きな本を取り出した。

 中身を見てみると、中にはびっしりと種族の写真と特徴などが書いてあった。


「あのーキアさんや。これはカタログ的なやつですかい?」


「はい。神に渡された1つのアイテムでもあったのですが、主が強すぎて使うことがなかったのですが、いいタイミングになりましたね」


「エグい数の種族がいるじゃん!こんなにいんのかよ」


「まぁそうですね。大まかに分類してもヒューマンタイプでもエルフやヴァンパイアなどもいますし、というかまだいますが言うのも超長い話になってしまいますので割愛しますが、魔物・魔族・魔獣など、これもとてつもなく多く居ますので……もう面倒臭いので見てください」


「お前、一応俺の脳内システムだよね?

 面倒臭いって……お前が面倒臭いレベルの話は俺にはもっと面倒臭いと思うんだけど……」


「さてシールドを貼りますねー」


「むしー!フル無視しやがった!」


「主……実は1つだけ選んでほしい種族があります」


「1つだけって、それ以前に何個も選べんのかよ」


「はい。なんせ主は変人ですからね」


「いや、待て。理由になってねー」


「主の精神体が特殊というのもあるんですが、何よりスキルですね。

 スキル名:統合

 このスキルにより種族のいいところを掛け合わせることができちゃうんです」


「俺って意外とやりたい放題じゃん……」


「まぁ利用できるものは利用しちゃいましょうよ」


「んで、お前がなってほしいものとは?」


「はい。これは私の分身体に凄く適合率が高かったので選んだのですが、ハイエルフを選んでください。

 ちなみにハイエルフは他の種族とも相性が結構いいので、統合がしやすいかと思います」


「わかった。1つ目はハイエルフだな。

 俺はなぁ……ん?これと統合したら面白そうだな。お?これも」


「決まりましたか?」


「ああ!決まった!ちなみにこれって後付けで追加って出来るの?」


「はい。可能です」


「じゃあ今はこれでいい」


「では、始めちゃいますか」


「そうだな」


 俺の器が遂に決まった。

 現段階で3種族。


 願わくば多少イケメンになりたいものだ。

 いや、めっちゃイケメンになりたい。

 だって魔物がイケメンって理不尽やろ!

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