【32】覚醒準備期間
俺達はダンジョンから転移をし、ジェンノ王国へ戻ってきた。
早急に報告しなければならない事案を自ら生み出してしまったからである。
「陛下、戻りましたよ」
「なに?その畏まった喋り方……
なんかあったわね」
「その通り。実はですね私ザハルは81階層でとんでもない化け物と遭遇しまして、フルボッコという形で初の敗北を致しました!」
「はぁ!?あんたが負けた!?」
忘れられていたネズミさんが騒ぎ立てる。
勿論、家の奥様も。
「ちょっと待ってザハル!え?あなたが負けたっていうの?相手は!?魔王軍?誰?」
「オスクリダドの当主ロスト」
「嘘でしょ!?オスクリダドの当主とか聞いたこともないわよ!
何か言われたの!?早く言いなさいよ!」
「ネズミうるさいって!
なんか俺は超越者の1人で今の状況に満足せずに生きろって言われたな」
「やっぱり……だがら接触してきたのね」
「どういうことなのですか?」
「レーニア、あんたザハルの、この強さが異常だと思わなかったの?
最早、人知を超えているのよ。
簡単に言うと、もう人の領域じゃないってこと。
ザハル、あんた多分もう人間じゃないわよ」
「は?はぁーーー!?
いや、人間だし!人間じゃねーのはお前の方だろうがドブネズミ!」
「ドブネズミじゃないんですけど!まぁそうね私も人間を辞めた1人ではあるわ」
「いや、俺は人間辞めてねーし!」
「違うわよ!まだ肉体は人間と言えるけど、もはや精神体は人間の領域を超えてしまったと言ってるのよ」
「んー……何となくだが、言わんとしてる事は何となく分かるんだが、知ってることがあるなら教えろよ。どういうことだよ」
「あんた恐らくなんだけど、エニリカスを受ける前から転移とか使えたわよね?」
「使えたけど」
「さらにキアと融合したり分離したり、何より魔物とも精神体同士で繋がれるでしょ?」
「まぁ関係性が深ければな」
「あのねぇ、あり得ないのよ」
「何がだよ」
「全てがよ。あんたのスキルレベル・自身のレベル・魔物との繋がり。
人間が魔物と繋がろうとしたら、もはや黒魔術レベルよ。
乗っ取られて死ぬか、吹き飛んで死ぬかの2択しかないのよ。
それがたとえ勇者でもね。
超越者にしか出来ない。そうあなた達のような超越者にしか不可能なの」
「だったらよ。その上に行くにはどうすりゃ良いんだ?俺はもう一度アイツと会わなきゃいけない。何が何でもな」
少し沈黙が訪れて案外予想通りの答えが返ってきた。
「人間を辞めることね」
「やっぱりな。で、辞めてどうなる?
フィリックスは?レーニアは?王国は?」
「別に何も変わらないわよ」
「なんだ。じゃー別に人間の姿に拘る必要もないってことか」
「軽すぎるでしょ!」
「なんだよ」
「だってあんたまだ17歳とかよ!
そんな少年の年齢で人間としての生涯を閉じてもいいわけ!?意味わかんない!
なんで!?死ぬのが怖くないわけ!?」
「人間辞めたドブネズミに言われたかないんだが」
「ハリネズミですぅーーー!!!」
「というか別に人間として死ぬわけでもないだろう。精神体自体は俺のままだし、人間の肉体に関しても魔物たちみたいに人型変化が出来ればいいだけで、別にそれって大きな問題なのか?
俺がお前らの言う超越者って存在なら、寿命も意味分からんレベル長い訳だし、既に生物人間としての形は崩れてると思うんだよね」
「それもそうなんだけどさ。なんかこう自分の体に頓着が無さすぎてイラッとしてしまっただけよ。
だってあんた家庭を持ってるのよ」
「それは別に上位変換されても状況は変わんねーし。
俺は家族を愛すし、レーニアもフィリックスもな。
そこでお前に聞きたいことがある。
お前はどうやって、その姿を手に入れたんだ?
あくまでもお前は転生した時点では、超越者とか関係なく普通の人間として転生しただけに過ぎないだろうから、禁忌を使ったとかになるんだろうが」
「そうね。あんたの言う通り私は禁忌を犯してこの姿を手に入れたわ。憎たらしくもジェンノ王国を相手に常に小競り合いを仕掛けてきた国そのものを供物に」
「一国を供物か。
お前のやったことって、本当に悪魔よりたちが悪い。
何万人の命だ?」
「あのときは大きな戦争になり攻撃を仕掛けてきた時だったから、軽く2万人はいたと思う。それと国王と、その側近たち全員ね」
「それで自我を保ちながらも魔物化に成功したのか。
エグネズミなこった」
「魔物化すればさらなる強さと寿命を手にできるからね。
あのときの私には選択肢も無かったし」
「レーニア、俺が精神体として上位変換されて、人間っていう枠から外れても大丈夫か?」
「大丈夫か?って言うより、もはや人間の枠は超えてるでしょ。どこにそんなレベルの人間が居るのよ。
好きにしたら?あなたは何も変わらないでしょ?」
「ああ。誓って変わらない。
実はやり方はある程度分かってるんだ。
これは俺がわかってるってより、キアの能力になるんだけどな。
で、そのキアの能力で場変換されてる間は俺は休眠状態になる。
数日なのか、1週間以上になるのかは分からんけど」
「良いわよ。マイムもクラーヌも居てくれるし、多少人間の国が攻め入っても今のジェンの王国は一欠片も壊れることなんてないわ。
そうと決まれば、さっさとやっちゃいなさい!」
「すまん。
キア、お前が3段階アップデートするには何が必要だ?
まず、それを大量に集めに行こう」
「まずはラグドゥネームという砂糖なんですが、これはダンジョンで代用品がありますのでプランダレードという糖分を取りに行きましょう。
これを2キロほど。
ガラムスーリヤの缶タイプが欲しいのですが、代用品であれば、これもダンジョンでしか取れない、さらにニコチン量の多い
ガラムスーリヤの4倍ですので8.4mgのニコチン量を誇ります。
全て主の体に危険を及ぼすレベルですが、今の主の体であれば全て栄養分として分解し、アップデートに必要な蓄電が溜まります」
「オッケー。全て非合法過ぎるエグい内容だけど、そうと決まれば取りに行くぞ。
ダンジョンは何回層くらいで取れるんだ?」
「50階層までで全部揃います。
場所も全てマッピング済みです」
「流石キアちゃん」
「主、キモいんでやめてください」
「キモい言うな!ウザいとかキモいって意外とおじさんになると傷つくんだからね。
泣いてなんかいないんだからね」
「行きますよ主」
「むしーーー!!!それもキツーい!!!」
なんか知らんけどキアから非常に非情な反応をされた俺であったが、気を取り直して俺とキアはダンジョン探索へ向かうのである。
非常に非情!イェー。って呟いてみた所……
「うざ」
この一言だけ残されて俺の豆腐メンタルは崩れそうになったが、大丈夫!俺は高野豆腐だ!と言い聞かせてなかったことにしたのであった。
ダンジョン50階層
「キア、これか?」
「はい。紛れもなくこの樹木から必要な全ての素材が採れます。
しかしながら、通常人間に採取することは不可能です。
階層の問題もありますが、例えこの樹木が1階層にあったとしても、喜樹から放たれるメストに対して耐性を持つ人間は存在しません。
ゆえに、採取出来る者のみが歓喜できるように喜樹と名付けてあるようですね」
「採取出来る者が出会えば歓喜し、出来なければ直結して死しかない。
極めて異世界ダンジョンっぽい話でいいんじゃないか」
「主、これで私達に必要なものは全部揃いました」
「私達って事はお前何か他にも目的があるな?」
「実は……エコー殿の能力を開花させる樹の実があるんですが、それもこの樹木に実るはずなんですが、見当たりませんね」
「樹木の実……樹木の実……ん?樹木の身?
それって”実”ではなく”身”。つまり樹木自体のことじゃないか?
この皮が剥げかけた所をめくってみよう。
あ!?これじゃね!?なんかぷにぷにしたものがあるぞ」
「あー!?それです!紛れもなくそれです!」
「でもよー食べて大丈夫なのか?
アイツ引くほどレベル低いぞ。死なね?」
「逆です。取ってしまった実は人間にとっては最高に経験値の詰まった実に変化します。
エコー殿の必要スキルの経験値。更にはレベルも最小限ではありますが限界突破もします。
これが喜樹の圧倒的な力です」
「そうか!じゃー何個か拝借して帰ろう。
レーニアにも食わせよう」
「いえ、レーニアさんは勇者スキルを持ってるので魔物の樹は体に入った瞬間に相殺されるので意味がないでしょう」
「えーなんだよそれ。じゃーエコーの1個だけ持って帰るか」
「はい。そうしましょう」
「フィリックスはまだ食えんし仕方ないか」
「王子は今後も恐らく必要ないと思いますよ」
「え?」
「なんとなくです」
「ふーん。まぁいいや」
なんとなくお茶を濁されたような感覚を覚えたのだが、俺は深く突っ込まず転移で王城へ戻ってきた。
だってさ、フィリックスは色々親の思いを押し付けるより自由に、のびのびと成長して欲しいからさ。
いつかは必ずあの子も大変になる時期が来る。
いつかは決断を迫られる時が来る。
その時までは、彼の好きなように生きてほしいわけなのだ。
それは俺が前世でずっと思ってたことだからってのもある。
もしかすると、またこれも押し付けなのかもね。
でも、俺はあの子が頼ってくるまでは、あの子のいい遊び相手であり優しいパピーでありたいと思ってる。
そう……俺のパピーやマミーのようにね。
「お帰りザハル。早かったわね。
それで目的の物は手に入ったの?」
「うん。手に入った。で、俺は今から採ってきた物を調理したりして暴飲暴食&暴喫煙して眠りにつくから、マイムとクラーヌはレーニアとフィリックスの事をよろしく頼む。
俺はキアがアップデート中、一時的にめちゃこら弱くなるけど、今のうちに誰も破れない結界を貼っておくから安心していいよ」
「誰も破れない結界って……ザハル、あなたお城を壊したりしないでね」
「大丈夫。自室ではなくダンジョンでやるから。では行ってくるざんす」
「ちょっ!ちょっと気を付けてよ!
行っちゃったぁ。ホントこっちの心配はよそに、いっつもこうなんだから!」
「ははは。でもあれがザハルだよね」
「ダンジョンって、普通そんな危険なことは安全な所でやるもんでしょ?フィリックスー、あなたのパパは本当に困った人でちゅねー」
「主、いいんですか?絶対レーニア女王ぶちギレてますよ」
「いいのいいの。多分ぶちギレってより呆れてるくらいじゃないかな?
まぁ本当に危険なことをするんだし、目の前では心配が更に増えるだろうからね。
こんなあぶねー事はあぶねー場所でやっちまったほうがいい」
「まぁそうですね。ダンジョンであれば万が一にも何かを大破する形になったり、覚醒直後に力の制御が出来ずに被害を出さずに済みますしね。
それに今から貼る結界はメスト量が半端じゃないものを貼るので、地上では絶対展開できないですからね」
「そう。だから結局ここしか無理なんだよね。
さて、始めようか!」
「承知しました。それでは私もモードに入りますね。
高位結界発動。
同時に高糖度料理を作成。
完了。
高ニコチン量のタバコを作成。
完了。
全ての準備が整ったことをお知らせします」
「激アマだな!これは!食い物、飲み物が甘すぎる!でも流石はキアだな。飽きないように作ってやがる。
タバコもスゲーパンチがある。
キアの絶妙な調整がなければ、こんなのぶっ倒れてるぜ。
頭いてー!やべー意識が……」
まるで自殺行為にも見て取れる行為を続けること6時間。
俺は意識をしっかり失い、そのまま眠りについたのである。
どのくらい眠ったのだろう。
分からない。
結界の周りには
微かに誰かの声が聞こえる。
「誰だ?」
「あるじ」
「ん?」
その声は次第にはっきりと聞こえてくる。
「主!主!」
「なんだ、キアか」
「やっと目覚めましたね」
「やっとって、数時間くらいしか眠ってないだろうに」
「何言ってるんですか?今日で10日目ですよ」
「まじんがー?」
「まじんがーです」
「というか、まぁまぁ強い魔物の死体が鬼のように転がってるじゃねーか!キモ!」
「いや、あれやったの主ですからね……」
「まじんがー!?」
「まじんがーです!!というか、さっきからなんなんですか!?その、まじんがーって!!」
「著作権に引っかかるやつだから詳しくは言えないやつだ」
「あー例えばカタカナにしたらダメなやつですねー。なるほどなるほど。
というか、お体に違和感はありませんか?」
「んー特に何もないな。というより寧ろしっくり来る。
あれ、これ、もう俺って人間じゃなくなってる感じ?」
「はい。正確には人間でも魔物でもない状態というのが今の状態です。
もっと言ってしまえば、人間には戻れませんし人間より弱いものにもなれませんが、それ以外になら何にでもなれるって状態です」
「なにそれ。なんかキモくない?」
「そうですねー」
「そこは認めるなよ」
「簡単に言うと精神体そのものなんですよ。
今は私のスキルで人間だった頃の姿を再現しているんですよ。
私偉いでしょ?」
「あ、うん。ありがとう……」
その後も色々とキアと話していく中で少しずつだが今の現状が把握できてきた。
まず何より一番の変化は人間ではなくなり精神体そのものになったことで、本当にこの先自分が目指すべき器を求められるってことだろう。
次にレベルの事だ。
なんというか、レベルの上限というのが恐らく無限に近くなったということもあり、今のレベルが跳ね上がっている。
この状態になるまでは580だったレベルも、今では700になっている。
700って、もうどんなレベルなんか知らんよね。
ただ1つだけ言えることは、まだアイツには勝てないってことだけだ。
あとなんかキア曰く、マイムの特有能力である吸収も今では俺も使いこなせるようになっとるらしい。
ということは、今後もっと楽にスキル獲得やレベルアップが出来そうな気がする。
だがまだ覚醒には程遠いらしく、今後の成長に期待!
って所らしい。
まぁあれこれ言っても仕方ないし、もう人間でもないけど、日常生活に支障のないレベルまで力を制御できるようになったし、我がファミリーの元へ帰るとしますかね。
レーニアとフィリックスの顔を早く見たいぜ!
「帰るぞキア!」
「はい!」
少し驚いたのは転移の時に、いつもは仰々しい転移陣が出てくるんだが何も出現せずに転移出来てる事に、ほんのちょっぴり……いや、めちゃくそ驚いたのは内緒にしておこう。
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