林間学校の怪談

齊藤 涼(saito ryo)

林間学校

 そんな急に怖い話をしろって言われてもなぁ。

困ったけどそりゃ、そうだよなぁ。

肝試し、雨のせいで無くなったしなぁ。

雨足はより一層強くなったように感じた。


そういえばこんなこと、俺が中学生の時もあったんだよ。


今みたいな林間学校でのことなんだけど。

明日は肝試しだから何かあっては困るからと、

先生が見回りを強化していたんだ。

ベッドに横になっていると足音が聞こえてくるぐらい。

生徒のいる部屋をぐるぐる回っていたんだ。


薄目を開けると、鹿の背みたいな柄の

スーツのズボンから踵が擦り切れた革靴が覗いていた。

足を擦って歩く音で気がついたんだよ。

何度も見回りをしていて、先生って大変なんだなと。


次の日、大雨のせいで肝試しは無くなってしまって。

その代わりにと、先生達が怖い話をしてくれたんだ。


墓場で人魂が飛んでいたとか、

口裂け女が出た時の話とかね。

みんなも先生の好意から怪談話をしているから

どこかで聞いたことのある話でも静かに聞いていた。


そんな時、普段は快活な先生が声を潜めて。

そういえば、こんな事が昔あったと話し始めた。


仲の良かった同期の先生が何年か前にいなくなってしまった。

荷物もそのままにした状態で消えたそうだ。

その時も林間学校で先生達は生徒とここに来ていたと。

前の晩までこんなこともあったなと懐かしそうに話していた。

予兆なんてないまま、いつも通り朝起きると。

同僚の教師は忽然と姿を消していた。


小柄でがっしりとした骨太の先生だったらしい。

穏やかでいつも学生たちを微笑みながら見守っていたと。

茶色い鹿子模様のくたびれたスーツに中折帽を深く被っていて。

いくら履き変えろと言っても踵の擦れた革靴を履いていた。


その時、気がついたんだ。

俺が昨晩寝ていたのは、2段ベッドの上の段だったこと。

あの人は空中を歩いていたことになるってことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

林間学校の怪談 齊藤 涼(saito ryo) @saitoryo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ