第13話:神々の罪と代償(1/10)

 どこまで飛ばされたのか、目覚めるとそこは朝焼けに照らされる荒野だった。砂埃を巻き上げる風が、痛みとともにレンの意識を引き戻した。吹き飛ぶ直前、レンは翔子を必死に抱きしめ、自分の身体を盾にしていた。今、二人が無事で一緒にいられることに、胸の奥が温かくなる。レンは翔子の目を見つめながら、やさしく声をかけた。


「大丈夫か?」


「ええ、ありがとう。大丈夫よ。蓮司は?」


「ああ、俺もな。心配かけてすまない」


「無事ならいいの。お願い、無理だけはしないで。レンは一人じゃないわ、私にも頼って」


 周りは瓦礫と灰で覆われた町の残骸だ。その中で、黒狼のクロウが傷を舐め、妖精のルナが空を仰ぎ見ていた。月読も、影からその様子を静かに見守っている。


 目の前の廃墟を見渡し、立ち尽くすレン。彼の心は重苦しい罪悪感で満たされていた。生存者がまだいるかもしれない。小さな子供たちも、今日という日を楽しみにしていたはずだ。しかし、それらを彼の手が奪ってしまった。


「本当にそうなのか?」


 自分の中で問いかけながら、レンは自己の行動を省みた。他人を責めるのは簡単だが、真実は、彼がもっと強ければ違った結果になっていたかもしれない。


 ――力があれば、避けられたかもしれない。


「あの黄金の者さえ、召喚を行わなければ……。いや、過去は変えられない。選ばなかった選択肢も得られない」


「ならば、明日を変えるしかない」


 そのためには、新たな力が必要だ。勇者を止める力、黄金の者を止める力。そして、それを容認する神々を……。


「全てを破壊して……」


 レンの思考を察したルナは、神妙な顔で言った。


「悪いのは神々でもあり、勇者でもあるよ」


「それは……」


 レンは否定するつもりはなかった。彼の心とは異なり、ルナはレンが自責の念に苛まれることなく、話を進めた。


「魔導書はあくまでも道具。使う人の手に使い方は委ねられるわ」


「たしかにな。武器が勝手に人を傷つけるわけじゃない。使う人間の意志がそこにあるんだ。だから、魔導書が直接命を奪うわけじゃなく、その力を利用する俺たちが責任を負うんだ……」


 ルナは再び語り出した。


「そうね……ただ勇者も大変よ。彼ら勇者は、最初は素直でも、いずれ傲慢になるわ」


「どういう……ことなんだ?」


 荒廃した世界の中で、ルナの声はかすかな安らぎをレンにもたらす。しかし、その話題はレンの心を重くするものだった。


「実はね、蘇生魔法には強烈な精神的衝撃が伴うの。何度も蘇生を繰り返すと、精神が崩壊する危険があるんだよ」とルナは淡々と語り始めた。この新たな情報に、レンは驚きつつも、話の重さに身を乗り出して聞き入った。


「本当にそうなのか? 町の噂では聞いていたけど……」


「ええ、正にそうよ。人族にとって蘇生魔法は、極めて厳しい試練を意味するわ。そして、蘇生回数には限界があって、それを超えると……」ルナの声はふと暗くなった。


「どうなるんだ?」レンの問いかけに、ルナは少しの間を置いてから答えた。

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