第10話:食いしばる血涙の絆と崩壊と暴走の悪夢(2/2)

「翔子、大丈夫か? ここで少し休もう」


「ええ、でもレン……」


「大丈夫だ、俺が守る。一緒に未来を切り開こう」


 彼らが隠れる場所を見つけた時、周囲は既に混乱の極みにあった。

 レンと翔子は、憑依召喚の魔導書の影響で暴走する村人たちから逃れ、町の空き家に潜伏した。状況は絶望的で、かつての平和な日々はもはや遠い過去の話となっていた。


 この状況では、解決策は限られていた。憑依者に乗っ取られた村人たちを倒すことが唯一の出口だとレンは悟る。憑依召喚の誓約により、支配から解放されるまでの一日が、彼らに与えられた唯一の猶予だった。しかし、その時間を待っている余裕はなかった。村人たちは容赦なく殺戮を繰り返し、生存者を残さない勢いだった。


 顔色の悪くなる翔子に「翔子、大丈夫か?」とレンが心配そうに尋ねると、翔子は静かに答えた。「ええ、レン、あなたがいてくれるから大丈夫。二人でこの危機を乗り越えましょう」


 外では村人たちが町を荒らし回っていた。衛兵や教会騎士団の姿はなく、通常ならば活躍するはずの勇者も見当たらない。全てが静まり返り、唯一聞こえるのは遠くで起こる戦闘の音だけだった。


 この異常事態に、レンと翔子は不安と戸惑いを隠せない。レンは窓から外を伺うが、見えるのは倒れた衛兵たちの姿だけ。町の防衛は既に崩壊しており、勇者も兵士も憑依者の凶暴性の前には無力だったのだ。


 レンは深いため息をつき、翔子と共に次の行動を考える。「どうやら、ここはもう安全ではないな。でも、この場を離れるのもリスクが高い。どこへ行けば……」


「そうね……でも、私たちなら何とかなる。今は慎重に、そして一歩一歩前に進むしかないわ」翔子の言葉に、レンは頷き、二人は未来に向けての新たな決意を固める。


 レンは状況の打開を図るべく、重い決断の岐路に立っていた。町中で繰り広げられる村人たちの暴動の中、翔子が足に深刻な怪我を負ってしまっている。このままでは、翔子を守ることさえ危うくなる。レンの心は、憑依召喚の魔導書を使用する決意へと傾き始めていた。


 レンの内心は葛藤で揺れていた。変わらないで済むならば、そう願っていた。しかし、翔子を守るためには、憑依召喚の力を借りるしかないという結論に達する。「翔子、心配するな。俺が何としても守る」と、彼は静かに語りかけた。


 翔子はレンの決意を感じ取り、複雑な心境ながらも彼を信じることを選ぶ。「レン、ありがとう。私たちならきっと乗り越えられるわ」と、彼女は力強く答えた。


 レンは、これまで避けてきた力――村人たちが狂喜するほどの力を自らのものとする覚悟を固める。ルナから得た知識に基づき、彼は憑依召喚を行い、その力で翔子を守る決意を新たにする。


「この力で、どんな障害も乗り越える。二人で生き残ろう、翔子」と、レンは心に誓い、憑依召喚の魔導書を使うことを選ぶ。彼らに残された唯一の選択肢、それは力を得て生き抜くことだった。

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