第8話:階位の始まりと力との対話(7/10)

 「ふふふ、やはり君は悪のエリートだ」とザバキエルは言った。レンはその意味を探るように瞬きを繰り返す。ザバキエルはそれを見て続ける。「君のように信念を持って行動する者は、一種の正義を体現している。私たち悪魔と人間との間には価値観の違いはあるが、この世界で人の命を奪うことが必ずしも悪とは限らない。効率的に人を殲滅する者は、ある意味で英雄とも言えるだろう?」


 レンはザバキエルの言葉に困惑しながらも、その理論に完全に否定できない自分を感じる。ザバキエルはレンの違和感を見抜き、「さすが、悪のエリートだね」と褒める。


「他人に関心を寄せず、自らの決断で行動し、自己の欲望のためだけに動く。道徳を軽んじ、自然体でいられるその姿勢は、正義が介入する余地がない。これぞ真の悪のエリートの証だ」とザバキエルは続ける。


 レンは、そういう見方をされるとは思ってもみなかったが、あくまで仮定の話しとして受け止める。ザバキエルはレンの反応を楽しむかのように、ニヤリと笑みを浮かべる。「他者に無関心な君は、まさに悪魔にふさわしい。僕は君を歓迎するよ」と真剣に言い放つ。


 慇懃にお辞儀をして、ザバキエルは顔を上げ、「おっと、時間のようだね。レン君、『また』会える日を楽しみにしている」と言い残し、突如として姿を消した。レンは名前を知られていることに驚きつつ、残された深い疑問を抱えて立ち尽くす。



 レンは消え去った悪魔のことをルナに問いかける。「さっきの悪魔、一体何者だったんだ?」

 

 ルナは目を丸くして反応する。「えっ、悪魔がここにいたの? 本当に?」


 レンはうなずき、先ほどの出来事を説明する。「ああ、まるでルナみたいに半透明で、直接俺に話しかけてきたんだ」


「えー! それは驚きだわ。でも私には何も見えなかったのよね」とルナは首をかしげる。


 レンはそれを不思議に思う。「おかしいな。ルナには見えなかったのか?」


 ルナは思案顔で話を続ける。「うん、全く気づかなかったわ。でもレンには見えたってことは、何か特別な理由があるのかもしれないわね」


 レンは、その「特別な理由」について考える。「もしかして、ルナが封印を解いた時のあの光が関係してるのか?」


「そうね、その光がレンの目に何かをもたらしたのかもしれないわ。あの時、一緒に何かがレンの目に紛れ込んだのよ!」とルナは目を輝かせて言う。


「紛れ込んだって、まさか悪魔の力?」レンが問うと、ルナは頷く。


「ええ、その可能性が高いわ。その悪魔の魔力が、レンの視覚に影響を与えたのね」


 レンは深刻な表情で尋ねる。「じゃあ、俺はこれからどうなるんだ?」


 ルナは安心させようとするが、確信は持てない。「大丈夫だと思うけど、完全にはわからないわ。でも、一緒に解決の糸口を見つけましょ?」


「悪魔が光を苦手とするって聞いてたけど、それは本当なのか?」レンが続ける。


「その通り。でも、すべての悪魔に当てはまるわけじゃないわ。光の中に潜む悪魔もいるよ」とルナが答える。


 レンは疑問を投げかける。「光=神聖、っていうのは人間の勝手な思い込みか……」


「正解。実は光の中に潜んで、人の体を乗っ取る機会を伺っている悪魔もいるよ」とルナが真剣に語る。


 ルナは深く考えた末に、レンに新たな仮説を提示した。「そう考えるとね、魔力を使い尽くして弱っていた悪魔が、レンの目に『見つかってしまった』のが自然なのかもしれないわ」


 レンはルナの言葉を静かに受け止め、「なるほど、戦いで疲弊していたから、俺にだけ見えたのか……」と納得した。


「そう。悪魔も戦いで力を使い果たしていたから、通常は見えないはずのレンの目に映ったのかもね」ルナがその理論を補強する。


 この推理を聞き、レンは自分の新しい能力についてより深く理解し、「悪魔の存在を直接見たり感じたりできるのは、俺にとって大きな変化だ。でもな……それがどう影響するか、まだわからないな」と静かにつぶやいた。


 ルナはレンを励ますように言った。「そうね……レン、これは新たな力だよ! レン自身がどう使うかによって、何か良い方向に導けるかもしれないわ」


 レンはルナの言葉に感謝し、「そうだな。新しい力を理解して、上手く使えるようになりたい」と前向きな気持ちを新たにした。

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