第6話:絶望の夜明けと希望の代償(5/5)
翌日、翔子は村の中にあるベンチに座り魔導書を眺めていた。レンは翔子の憂いを帯びた目を見つめ、心配を募らせていた。彼は、翔子が魔導書について迷っていることを懸念し、彼女にその危険性について改めて伝えた。
「翔子さん、昨日も伝えた話ですがその魔導書、使ったら危険です。肉体が乗っ取られる可能性があるんです」とレンは言い切った。
翔子は驚きと疑問が入り混じった表情でレンを見返し、「どうして急にそんなことを?」と尋ねた。
レンは、洞窟近くの祠で封じられていた妖精から聞いたことを翔子に伝えた。翔子はその話に興味を示し、しかし疑念を抱えたままだった。「妖精? 本当に? 私たちには魔力がないけど……」と彼女は言葉を濁した。
レンは妖精の話を一旦脇に置き、魔導書の使用に関する懸念に話を戻した。「魔導書を使うと、召喚された者によって乗っ取られるリスクがあります。それは召喚者自身が消滅する危険を伴うんです」とレンは続けた。
翔子は深刻な表情でレンに尋ねた。「レン君は使ったの?」
「いいえ、まだです。リスクを考えたら、慎重にならざるを得ません」とレンは答えた。
翔子の返事はレンを愕然とさせた。「でも、もう遅いわ。使ってしまったの」
「え? でも、そこに……」レンは彼女の手にある魔導書を指した。
「ええ、これはレン君用にとっておいたの」と翔子は静かに言った。
レンはショックで言葉を失い、膝から崩れ落ちそうになった。どうすれば翔子を救えるのか、どうやって魔導書を取り出せるのか、彼の頭は混乱していた。
しかし、翔子はまだ落ち着いていた。「心配しないで。まだ大丈夫よ。召喚はしていないわ」と彼女はレンに安心させるように言った。
レンは安堵したが、ルナからの知識を基に、翔子に慎重に行動するよう頼んだ。「翔子さん、魔導書はリスクが高いです。使うなとは言いませんが、使用する場合は慎重にしてください。あなたを失いたくありません」使うなと言えば逆に使いたくなるもので、やると決めた人間は止められない。それならば慎重にと言った方がいいのである。
翔子はレンの誠実な言葉に感謝し、「大丈夫、レン君。心配かけてごめんなさい。使う前には相談するわ」と約束した。
レンは翔子の動機について直接尋ねた。「翔子さん、何故魔導書を使おうとしたんですか?」
翔子は重い沈黙の後、「復讐のためよ。アキトを奪った魔獣に、どうしても許せない気持ちがあるの」と静かに答えた。
レンは翔子の心情を理解し、同時に彼女の負担を少しでも軽減したいと感じた。「そうだったんですね。でも、復讐をするなら一緒にやりましょう。俺と翔子さんの二人で戦いましょうその方が力は二倍です」
「レンくん……そんな、あなたまで危険に巻き込むわけには」と翔子は反対したが、レンは断固として言い返した。「大切な翔子さんが何かを決意するなら、俺がそばにいるのは当然のことだと思います」
翔子はレンの決意に心を動かされ、感謝の涙を流した。「ありがとう、レンくん。こんなにも支えてくれるなんて、思ってもみなかったわ」
二人は固い絆で結ばれ、どんな困難も共に乗り越えていく決意を新たにした。ルナもそっと見守りながら、彼らが選ぶ道が最善であるようにと願っていた。
他の村人たちは既に魔導書の力を試している様子だったが、レンと翔子は互いを信じ、慎重に行動を選ぶことを決めた。魔導書がもたらす未知の力に挑む前に、まずは互いの安全と幸福を最優先に考えたのだった。
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