第2話:未知への共感(1/9)

 蓮司は、耳にした場所を目指して歩き続けた。

 町の人々は、尋ねれば親切に答えてくれたものの、魔力を持たない彼に対して微妙な距離感を感じさせるものがあった。

 魔力が生活の基盤を成すこの世界では、魔力を持たない者はまるで別の存在として扱われることも。しかし蓮司は、魔力がなくとも生きていける道があると信じ、転移者の村を求めて進んだ。


 草木が生い茂る未舗装の道を進み、やがて森道に差し掛かると、そこには巨大な円形の平屋住宅が姿を現した。その規模と構造に、蓮司は驚愕する。きっとこの村には、魔力を持たない彼らなりの工夫と知恵が詰まっているに違いない。


 村へと続く道の終わりには、一人の門番が立っていた。見た目は二十代前半ぐらいで長い黒髪を後ろで食べねており、無駄なく鍛えているのか多すぎない筋肉の鎧に身を纏いいかつい顔立ちをしていた。蓮司に気づいたものの、彼が脅威ではないと判断したのか、積極的に接触してはこない。それでも、その鋭い視線は蓮司をしっかりと捉えていた。


「アキトなのか?」門番は見かけによらず甲高い声で呼びかけてきた。『アキト』と間違えられた蓮司。アキトとは、この村に伝わる伝説の転移者の名前であった。


 蓮司は首を横に振り、「転移者の村を探しています」と答えた。

 門番の反応は興味深く、彼の身振りからは共感のようなものが感じられた。

 やがて、門番は自分も同様の経験をしたと告げ、蓮司に深い共感を示した。


「そうか、お前もか」と門番は軽くため息をつき、蓮司に村の中へと案内することを提案した。蓮司は感謝の意を示し、門番についていくことにした。

 

 彼らが通った門の先に広がるのは、外からは想像もつかないような世界だった。木製の扉を開けた先には、魔力を持たない者たちが築き上げた、新たな希望と可能性に満ちた場所が広がっていた。


 転移者の村での生活は、彼にとって多くの挑戦と学びの機会を提供してくれる。魔力至上主義の外の世界とは異なり、この場所では自分自身の新しい価値を見出し、成長していけると感じていた。


 蓮司が異世界の技術と日常が融合した風景を門番と共に歩きながら、驚きと興味を隠せないでいた。「こっちだ」と門番が指し示し、蓮司の注目を引いたものがあった。異世界特有の光源である、魔力を帯びた竹炭を核とし、魔石のエネルギーを活用して発光する革新的な照明器具だった。


「これは……まるで電球のようだ。すごいですね。異世界にもこんな技術が?」と蓮司が感心し、門番がそれに応える形で、「ああ、竹炭と魔石を使っているんだ」と技術について説明した。さらに彼らの会話は、魔石を用いたモーターの実験にまで及んだ。


 この技術に関する会話の途中で、ナイトドレスが似合いそうな、後頭部で髪をまとめた美しい年上の女性が突然現れた。恐らくは二十代前半ぐらいだろう。彼女は蓮司に駆け寄り、「アキト! アキトなの?」と情熱的に問いかける。この女性は蓮司を誰かと間違え、彼女の深い感情がその場の雰囲気を一変させる。


「あっ……。アキトじゃないのね?」と間違いに気付き、蓮司への謝罪と共に自分の勘違いを認めた。


 この突然の出来事に対し、蓮司は動揺しながらも理解を示し、「大丈夫ですよ。俺は気にしていません」と優しく対応する。女性は「新しく転移してきた方かしら?」と蓮司に同情し、その場は和やかなムードに包まれる。


 門番がこの機会を利用して蓮司を正式に紹介し、「こちらは桧蓮司さんです。今日こちらに転移してきました」と言い、女性、姫乃木翔子との間に新たなつながりを築く。「そう……。珍しい素敵な名前ね。ヒノ君でいいかしら? それともレン君かな?」


「あっ、どちらでも呼びやすい方でかまいません。気を使わせて申し訳ない」


「うふふ。ごめんなさいね。」姫乃木翔子が和やかに言うと、突然彼女は一瞬真剣な表情を見せた。「蓮司くん、これからはもう少し気を楽にして。レン君と呼ばせてもらってもいいかしら?」彼女の言葉に、蓮司は心の距離が狭まることを感じて少しほっとした。


「ええ、もちろんです。どうぞ、レンと呼んでください」これにより、二人の会話は以前よりも親密さを増していった。彼女は嬉しそうに微笑み、「それなら、レン君。私は姫乃木翔子。好きに呼んでかまわないわ」と言った。蓮司は温かさを感じながら、「分かりました、翔子さん。こちらこそ、よろしくお願いします」と心から応えた。


 このやりとりを通じて、蓮司と翔子、そして門番との間に生まれた微妙な絆と彼らの会話からは、異世界ながらも温かみと共に生きていく希望が感じられる。

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