第1話:選ばれざる者の瞬間(3/4)
勇気を振り絞って、蓮司はそのドワーフに声をかけた。「ギルドを探しているのですが、ご存知ですか?」と不安げに尋ねると、ドワーフの男は眉を寄せ、一瞬の沈黙の後に答えた。「探索者ギルドなら、何でも受けてくれる。一度相談してみるといい。」彼の声には暖かみがあり、それが蓮司の緊張を少し和らげた。
ギルドの場所を教えてもらうため、蓮司が再び尋ねると、ドワーフの男は地面に『8』の形を描き、「その形の看板を探せばいい。」と言いながら、蓮司の背後にある看板の方向を指差した。振り返ると、まさに「8」の形をした看板が見え、それが彼が探していたギルドの入口を示していた。
「ありがとうございます。助かりました。」蓮司が礼を言うと、ドワーフの男はにこやかに答え、「なあに、大したことないさ。ワシは町を出るんだが、またどこかで会ったらな。」と言い残し、去っていった。
この偶然の出会いは、蓮司にとって新しい環境への最初の一歩を踏み出すきっかけとなった。未知の世界での不安がまだ残る中、彼は異世界での新たな生活の扉を開く準備ができていた。
ギルド探しの成功は、この新しい世界で生きていくための彼の能力と決意を象徴するものだった。
ギルドの建物が門のすぐ近くにあることに気づかなかった蓮司は、一歩足を踏み入れると異世界の日常と直面する。
建物は赤く焼かれた煉瓦で造られており、その壮大な構造が町の風景に溶け込んでいた。
正面の広い扉からは、人々の活気ある出入りが見て取れ、ギルド内部のにぎわいが伝わってきた。
ギルドの扉は解放したままになっており、外から中の様子が手に取るようにわかる。
そうした中で、この扉はもしかすると何か魔法で特別なフィルターが施されていないか心配になってきた。周りに誰もいないため、恐る恐るギルド内に足を踏み入れると何事もなく入れたのは、僥倖だ。
中の様子からすると、ある意味健全な環境だった。飲んだくれや粗暴な者などがおらずシンプルな落ち着いた雰囲気だった。もっとあれくれ者の巣窟かと思い、少しばかり心臓の鼓動が入る前は高かった。それが今は落ち着いて、蓮司は建物内の様子に心を落ち着かせつつ、新たな世界での自分の役割と位置を模索する。カウンターには三つの窓口があり、背後の壁には様々な仕事の依頼が掲示されていた。それらの文字を読むことができると知り、蓮司はこの世界への適応が始まったことを実感する。
ギルドから提示される労働の相場や、具体的な仕事の内容を目の当たりにすると、蓮司は異世界での生活の現実をより深く理解し始める。薬草の採取、木材の搬送、さらに魔獣の討伐といった依頼が、この世界の日常と冒険が入り混じる生活を示していた。
ギルド内では、食事を楽しむ人々の姿もあれば、仕事を探す者たちの真剣な表情もある。この光景は、蓮司にとって新しい世界の多様性と複雑さを象徴していた。ギルドが提供する仕事一つ一つに、未知なる挑戦とチャンスが潜んでいることを彼は感じ取る。
慎重にギルド内を観察した後、蓮司は空いているカウンターに向かう決意を固める。
未知の世界での生活を切り開くための最初のステップとして、彼はこのギルドでの経験を通じて、自分自身の可能性を探求することになる。
ギルドの入口を抜けると、蓮司はすぐに受付に向かった。そこにいたのは、がっしりとした中年の男性で、彼に気さくに話しかけてきた。
「よう、兄ちゃん。依頼を出すのかい、それとも……?」男性の声は温かみがあり、蓮司は少し緊張をほぐすことができた。
「実は、初めてでして……どうすればいいか分からなくて」蓮司が戸惑いながら答えると、男性は優しく笑った。
「初めてか。安心しろ、ここでは新参者を歓迎する。で、その格好を見ると……転移者だな?」
「ええ、そうですけど……どうしてわかったんですか?」蓮司は驚きを隠せない。
「ふっ、ここに来る転移者はみんな同じような反応をする。それに、そのジーンズってやつ。うちの世界では珍しいからな」
「なるほど……」蓮司は感心しつつも、少し安堵する。
「さて、仕事を探しているなら、まずは登録が必要だ。ただし、そのためには魔力の測定をしないといけない」
「魔力の測定ですか……でも、魔法なんて使ったことがありませんが」
「問題ない。魔力がなければないで、別の道を探そう。ここには、魔法を使えない転移者もいるからな」
蓮司は指示された水晶玉に手を置く。しばらく待つが、予想通り反応はなかった。
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