雑草

@naporitansasaki

第1話 名無し

「行って来まーす」

 いつもと同じ時間に起きていつもと同じように家を出る支度をする。

 バス停に行けばいつも同じ人で列が作られている。前に並んでいる3人は私の足音を聞いて振り返り、互いに頭をほんの気持ち下げる。このたった数秒のやり取りを無視をして明日から顔を合わせるのが気まずくなるなんて御免だ。

 そしてこの後、私の後ろに来るのは大体...

ほら、ネクタイをだらんと首から下げた状態でYシャツのボタンもきちっと閉められていない。髪もボサボサで毎日毎日学習しないよなーなんて思ってしまう。まぁ、毎日の習慣から抜け出せない気持ちは痛いほどよく分かるけれど。

 バスに乗り込み空いてる席に座る。ICカードをかざして目の前の一人席に座り、私の後ろにいたサラリーマンさんは運転手の後ろの席をキープする。全員が席に座ると発車するバス。それと同時に私は今日もスマホに目を落とした。


【熱愛】大人気女優×有名アイドル 深夜の密会お泊りデート!?


 そんな見出しのネットニュースが目に留まる。コメント欄をわざわざ開かなくとも、嫌な言葉の羅列が目に入る。学校に着いた頃にはぐったりとした気持ちになって、バスを降りるのをためらってしまうくらいのだるさに襲われるが、そんなことをする勇気も気力もなくバスを降り校舎の中へ


未来みくおはよう」

 教室に入ると、バカがつくほど真面目な親友が私の名前を呼び挨拶をする。

「おはようさき

 顔を見るなり咲は大きなため息をつき私を一蹴した。

「また通学中にネットニュース見てきたの?なんで疲れるってわかってるのに毎日毎日同じことしてるのか。私には一生理解できないわ…あんたも懲りないね。」

 なんということだ。私は知らず知らずのうちにあのぼさぼさサラリーマンと同じことをしていたらしい。

「いや~怖いねぇ...」

「そうだね。ていうか、本当にその習慣やめなよ?未来はスポンジみたいな人間なんだから付き合う人もちゃんと選べ。」

「それ前から言ってくるけどどういう意味?」

 咲は「どうせ言っても分からないのに説明する時間がもったいない」なんて言って親指を栞代わりにして閉じていた小説を開き、本の世界に入ってしまった。


「未来ちゃんっ!」

 語尾に音符がついているような跳ねるような喋り方がいつも耳に残る。

隣のクラスのいずもちゃんがうちのクラスに来るときはいつも決まってなにか頼みごとがあるときだ。

「おはよういずもちゃん!どうしたの?」

「体操服忘れちゃって~...ほら、今日の担当平山ひらやまじゃん?怒られると面倒くさいから貸してほしいな~って!」

 平山か。確かにあの先生が起こり始めたら面倒くさい。でも、忘れたのは自分なのに先生のことを悪く言うのはお門違いなんじゃない?

「そっか!ちょっと待ってね!......はい!」

「うわ~!ありがとう!本当に助かる!未来ちゃんて本当に優しいから大好き!」

 いいや、頭の中では全くいずもちゃんの心配なんてしていない。ただ、いずもちゃんとの関係が崩れるのが面倒くさいだけ。

「そう?全然優しくなんてないよ~!」

「いや!優しいよ!未来ちゃんは私の緩衝材みたいな存在だから!頼りにしてる!」

 こんな些細な言葉がいちいち引っかかるなんて。やっぱり私は優しくなんてない。

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