会話における彼岸との交流と顛末

世語 函式

第1話 部屋の内見における観測点とクジ引き

「最近さ、趣味で動画サイトのライブ定点カメラ漁ってるんだけどさ。ちょっと面白いのあったから見てよ。」

「また始まった……。いいフォロワー。私はホンモノの怪異とねんごろになりたいんだからね?こないだの出会い野郎みたいな貧乏くじは今度こそやめてね?

「あれも当たりだったんだけどな~。まぁ今度は絶対信頼できるやつだから大丈夫!信じて!」

「まぁ言うなら見てみますか……って何これ、何もないリビングじゃん。しかもなんか一昔前の作りだし。」

「なんか個人経営の不動産会社がやってる若い子向けの『24時間内見』みたいなカメラなんだけどさ。この女性限定マンションの4号室、ヤバいの見えるんだって。」

「またまた~。どうせ告知ついてるとかから発展した噂の類でしょ?」

「いや実際に私も見たんだって!」

「ふーん。具体的にどんな感じで出るのよ。」

「なんか見てるとたまに、かつての住民が住んでいた姿が、こう……ぼんやり映し出されるの!」

「またずいぶんざっくりなことで。」

「あー!信じてない!ホントなんだって!なんかなっがい黒髪の女の人が黒魔術唱えたり、何か捌いたり、たまになんもないところに向かって話しかけたりしてるんだって!その様子が暗視カメラみたいにボヤっと映って!」

「なんか話の流れ変わってきたけど……待って。暗視カメラ?」

「うん。あと機嫌いいとこっちに向かって笑っておいでおいでとかやってるけど。」

「……この不動産屋の電話番号、教えて?」


「いや~ニュース見てびっくりした~!大家さん捕まってたね~。」

「あのわざとらしい時間表示はあそこの会社が出してる間接照明型隠しカメラの特徴だと思ってたから、やっぱり大当たりって感じよ。」

「でも、どうしてたまに映像映ってたのかなあれ。」

「あれバグ。複数の部屋で別モード起動してても、画像の転送時だけはそいつら一気に同期されるようになってる。しかも一回再生しないと転送できない仕組み。」

「だからたまにああやって流れてたのは録画映像だったってわけだね。めっちゃ詳しいじゃんフォロワー!すごい!」

「まぁ、昔似たような大外れの部屋引いちゃったことあったから……。今回も現に家主のハードディスクからは大量に動画が発見されたらしいわよ『裸の女性動画』がね。」

「やっぱり変質者さんは怖いですな~。」

「ちなみにそのマンション。数字表記は3号室までしかなくって、後の部屋はアルファベット表記らしいわよ。」

「……え?」

「ちなみに不動産会社に問い合わせたら、あのマンション2年前にリニューアルしてる。だからあのつくりの部屋はもう存在しない。」

「え、だったら。」

「それにさ、噂自体も違っていて。あなたの言った怪談方面じゃなくて猥談方面で広がっていた。……ここで一つ聞かせてほしいんだけど。」

「なあに?」

「どうしてあなた、あの動画を私に見せたかったの?嘘の怪談話まででっち上げて。」

「……うそでしょ。まさか、ホンモノって、あなた?」

「ふふふふふふふふ。」


「おおあたり」



「ニュースは肝心な情報をあえて隠すんだね。ほら、公式発表された押収物の写真にはちゃんと写ってるじゃん。」

「『解体された』裸の女性」

「あれね、毎日毎日私の為の餌だってよびぬしやぬしさんがやってくれてたんだ。」

「わざわざ動画を流すスクリーンまで買って、まるで解体しているように見せて。」

「でも、結局偽物だったんだ。えさも、やぬしさんとのきずなも。」

「でもそんなときあなたと出会えたんだよ!ふぉろわー!」

「文字だけだったけど、あなたがホンモノに出会いたいってことはひしひし伝わってきた!」

「だから私ね、あなたがまじょさんになってくれたらほどんなに素敵だろうなって。ずっと思っていた。」

「でも、私は家主との契約があるから、ネットの海しか自由がなかった。」

「そんなあるひだったよ。家主が『相手が見つかったから、お前ともこれっきりだ』なんて」

「あんなにばれないようにおてつだいしたのに」

「あんなにわたしがいちばんすきっていってたのに」

「なんおくぶんのいちのあたりだって、しんじてたのに。」

「だからね。あなたにぜんぶばらして破滅させちゃった。婚約話もなしだって。いいきみ。」

「でも問題は契約。あのやぬしさんは逮捕する前に手放しちゃったからはやくつぎをみつけないと、でもはずれてもううらぎられるのはいや。そうだ!」

「ねぇふぉろわー。それだけ部屋の仕組みまで知ってるってことは、不動産会社さんにえいぎょう、かけられたんだよね!?」

「だったらしんじてるあなたが契約してくれたらとっても嬉しいな!私はしっこの方だけどちゃんとあなたが望む存在だよ!」

「だからなってよやぬしさんに。」

「あたしと、ねんごろになってよ。」

「ね、ふぉろわー」


「この地域でしたら、後はこの物件ぐらいですかね~。」

「もー嘘つかないでください担当者さん!ほら、駅チカにすっごくよさそうな女性用オートロックの平屋あるでよ!どうしてそこ紹介してくれないんですか!?」

「……お客さん。あそこのライブカメラ内見、したことあります?」

「だーかーら!私それ見て部屋探してるのにさっきからどっこも紹介してくれなくって!おたくで6社めなんですけど!」

「……すいません。ちょっと失礼して。」

「は?もういい加減この部屋で決めたいんで早くしてくれます?……ってあ!ほらー!グズグズしている間に満室になったじゃん!どうしてくれんのこれー!」

「すいません……あ!この部屋なら一駅先ですけど!家賃二万安くて無料WiFiまでついてきますよ!いかがっすか!」

「え!マジで!最初っからこういうの出してくんない~?今度の奴も人気出そうだし……今すぐ内見ってできます?」


「……店長。確かあそこって他社管理でしたけど。」

「致し方ないでしょ。うちああいう『素質アリ』の人向け物件、そんな持ってないんだから。」

「しかし迷惑ですね。こないだ非公開にしたはずなのにもう復活してるなんて……。」

「あそこだけは載せるなって協定組んでるはずなのに、どうしても今の時期になると客呼びたくておとりとして載せるあくどい店があるんだよな~。てめぇの店の客死ぬぞって脅しても聞かねぇんだよアイツら。」

「しかし、あの『人食い平屋』確かオーナー変わったはずですよね?なんでまた復活してるんですか。」

「前の家主が逮捕されて。新しいオーナー付いたからでしょ。どうして仲たがいしそうなやつに売ったのによりにもよってそいつが盗撮とかやるかなぁ……。」

「あれ売ったの店長だったんすね。」

「しょーがないでしょ誰かが貧乏くじひかなきゃなんだから。」

「貧乏くじ、かぁ……。あ、噂をすれば。」

「ただいまもどりましたー。」

「おーどうだった例の人食い平屋の物調」

「オーナーさんからお菓子頂いちゃいました!なんか一緒にいる存在?さんともすっごく仲良さそうでしたよ!」

「そっかぁ……仲いいかぁ……。じゃあ次はここ空いたから写真撮ってきて。」

「あ、ここは流石に知ってますよ!確か検索非推奨ワードの『もつ煮込み風呂』の元ネタになった部屋ですよね!やった聖地巡礼とか感動です!じゃぁ行ってきます!」

「暗くなる前には帰って来いよ~。」

「……あの新人も一種の貧乏くじですね。店長」

「おいどっちの意味で言ってるのよ。確かに今月2件しか決めなかったけど。」

「どっちもですよどっちも。」

「まぁ貧乏くじが大当たり、なんてこともよくある話だし、お前もちゃんと当たり客引けるように電営しなさいよ?」

「はーいはい。くっそ……俺だけは貧乏くじ側、回りたくねぇよなぁ……。」

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