元カノと一緒に魔王討伐 ~俺が嫌いな元カノと、俺が好きな聖女さん~
hiziking
第1話 どうしても伝わらない想いと異世界転移
「徹!どこ行くんだよ」
「ちょっと忘れものした、田辺は帰ってて」
放課後、いつもは部活が終われば、すぐに自転車に乗って帰るんだ。
けどその日は、教室に忘れた問題集を取りに帰った。
それがまずかったと後悔する。
「あっ…」
放課後の教室、誰もいないはずの空間。そこには、艶やかな長い黒髪をたなびかせている美月がいた。
「………っ」
美月は俺の存在に気付き、少し驚いた顔をした後、当てつけのように大きい動作で目をそらす。
わざとやってんのかよ…くそっ…
美月とは中学で出会い、高校に入ってから、付き合い始めていた。
しかしそれは半年前のある出来事が原因で、俺たちは破局していた。
「………」
俺は無言で、美月の横を通り、自分の机から問題集を取り出す。
別に取りに来なくてもよかった、取りに来ない方がよかった。
こんな嫌な気持ちになるなら………けど美月に久しぶりに会えてよかった。
「よっ…美月…」
そう思えたから、俺は無理に明るく、顔を笑顔に引きつらせ、美月に声を掛ける。
もしかしたら…向こうもあの時のことがウソみたいに話してくれるかもしれない。
「っ……よく私に話しかけられたね。」
「ご…ごめん」
俺の希望は打ち砕かれる。
「私言ったよね、もう話すことは何もないって」
美月の冷たい表情は、俺を断罪する。淡い期待を抱いた罪を。
けど、断罪する彼女の表情は、ただ冷たいだけではなく、
「で、でも俺は…」
「…やめてよ」
「俺はお前と、美月ともう一度…」
「裏切ったのは、そっちが最初じゃん…」
熱く、深い悲しみの情動をこちらにも否応なく伝えてくる。
そんな美月の悲しみは、こちらの事情や感情を伝えることを許さない。
俺は………
「だって…お前のこと…」
「言わないで…昔はあなたのその言葉好きだった。
けど今もう信じられない。…今の徹の言葉信じられないよ」
どうして信じてくれないんだよ…どうしてそんな苦しそうなんだよ…
どうしてこうなるんだよ…
「ごめん…」
「………」
沈黙がまた現れる。いつもこうだった。今日こそわかってもらえる。誤解が解けるって。けど今の俺には誤解を解く方法も、誠意を見せる方法も与えられない。
こんなことなら…
「美月、あのさ………えっ…」
それは、突然だった。美月の立っている地面が光り始める。いや正確には、美月を中心に教室全体が光り始めていた。
「えっ…えっ…」
驚く美月をよそに、光はますます強さを増し、美月の姿を隠そうとする。
俺は、突然なことで、ただ立ち尽くしていたが、
「徹…」
「っ………」
美月のか弱い助けを求めるような声に呼応して、足が動く。
光に包まれていく彼女が、どこかに行ってしまう気がして。今手を伸ばさなきゃいけない気がして。
「美月!」
彼女の華奢な体つきと肌の柔らかさを感じたのを最後に俺は気を失ったようだった。
「んん…ん?」
目を覚ますと、目の前には、天使の装飾が施された、自分の身長の何倍もあるだろうステンドグラスが広がっていた。
「はっ…?」
さっきまでいた教室とは明らかに異なる雰囲気に俺は、仰向けで突っ伏したまま、軽くあたりを見回す。壁には、天使や神のようなデザインが彫られており、これほど大きな空間を照らすのには向いていないろうそくが、あちらこちらに設置してあった。
「教会か?でも…」
そんな部屋の様子から俺は、教会か何かに迷い込んだのかとも思ったが、うちの高校の近くに教会なんてものはなく、ますます疑問が増していくばかりだった。
俺、さっきまで何…して…
「あぁあああ!美月!」
急に俺の頭が冴えてくる。いや今の状況的には、濁っているのかもしれない。
だって、周りの状況確認をする以上に、美月の安否を確認しなければいけないと思っているから。理性的に考えるよりも、感情的に美月のこと、不安に思ったから。
「徹…?」
「えっ…!あっ…」
不安の矛先は、俺の体をベッドにして、俺の腕の中に納まっていた。俺があたりを見回しても、いないのは当然だった。彼女とここ数カ月接点のなかった俺が、今の状況を真っ先に思いつくわけがない。まさかこんな形で、彼女を抱き寄せることになるなんて思いつくわけがない。
「私何して…」
目を覚ました彼女は、俺の腕の中で、動き始める。彼女の柔らかな肌の感覚が俺の鼓動を早くさせていく。
しかし…
「美月…起きたか?」
彼女の意識がはっきりしないうちに、自然に彼女を手放し、体を起こす。
今の俺には、彼女と触れ合う権利はないから。
「………徹、私のこともう…」
俺が美月から手をどけた時、彼女の目は潤み、口調に寂しさがにじんでいるように聞こえた。
もしかしたら、美月は、俺より先に起きていたのでは…
なんて淡い期待を抱えるのは、すぐやめた。期待が裏切られた時、辛いから。
「トオル様、ミツキ様お目覚めですか!」
そんなことを思っていると、俺たちの後ろにあった大きな扉が開き、甲高い透き通った声が俺たちを呼んだ。
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