決断

「妖や霊達は人間より力を持っている。

その為、悪いもの達はその力を使い…殺し合う。

それでも共存できると思うか?」


「人間も妖も悪い奴はいる…

でも同じくらい良い奴もいる!

その良い奴を守る為に神を創ってるんだろ…ッ」


「おい…口の利き方…!」


綿津見が呆れた顔で海音を見る。


禍無絽が部屋に戻って来た。

とても香りが良くて湯気が出ている。


海音は禍無絽に会釈した。


「まあいい、こいつもまだ子供だ。

海音、残念ながらお前とは違う。

弱いものを守る…悪から助ける…そんな正義感の為にやってる訳じゃない。

私の仕事は人間の魂を捌くこと。

その魂が私の生んだ妖達に奪われるかもしれない。

そうなった時、責められるのは誰だ…?

捌くはずの魂が消えたら地獄で罪を償うことも、

天国で輪廻転生の順番を待つこともできない。

これはなんだ。

善意で生んだ妖達の悪事を防げない…

生んだ親の罪…生んだ後の事を考えなかった私の罪だ。

その罪滅ぼしの為、神を創る事にしたんだ。

だから、お前の正義と同じじゃない。

お前は罪滅ぼしの為の駒となるんだ。

これを聞いてどう思う?」



「僕は…利用されるって事か…?

お前の罪を僕にも被れって…?

ふざけるなッ!自分の罪を勝手に押し付けるな!

そもそも…悪い妖の責任だろ?

子の罪は親の罪なんて誰が決めたんだ…。」



「この世界も人間界も似たようなもんだ。

誰が決めた訳じゃない。それが真理だ。

お前にも罪がある。

それはお前の親の罪ではない。

だ。

お前は優しい心の持ち主だ。

だが、それ故に今回の事件を引き起こした。

お前が死んだ後、望むような結果にはならない。

お前の父親は魂ごと消滅し母親や民は人間に殺され海のエネルギーとなった。

残念ながら死んだ後、誰にも会えないんだよ。」



「はは…っ。

僕に海神になって欲しいのかそうじゃないのか分かんないな…

そもそも、あれは僕のせいじゃない。

夢幻がやったことだ!」



「そうだ。夢幻が起こしたことだ。

だが夢幻はきっかけを作ったに過ぎないんだよ。

お前が助けた女の子…あの子は友人に話してしまった。

人魚が居ることを。

そうして話が広がり、夢幻が本当に居たかのような夢を見せ

悲惨な事件が起こったんだ。」



「そんなわけない!

何も言ってなかったんだろ!?」


海音は綿津見を睨んだ。


「俺が調査した時はそんな情報は無かった…。」


俯き険しい顔をする綿津見。



「禍無絽に行かせた。

その子から直接話を聞いたんだ。間違いないだろう。」



「はい。私が話に行きました。

友人に話したら大事になって怖い顔をした父親が人魚探しに出かけたと。」



「心があるものは悪に染まる事がある。

夢幻の魂胆は綿津見が調べたのもで

あながち間違いではないだろう。

海音、お前にも罪がある。

それを償う為、海神候補に選んだ。

どうする?」



「僕の罪の償いの為…お前の罪を被る為、海神に…?

断ったら…?」



「分かるだろ?償う為に死ぬか、海神になるか。

それにお前は夢幻に目を付けられてる。

夢幻の調査をするのにはうってつけの人材だ。」



「とことん僕は利用される側か…。

夢幻の事はどうでもいい。

ただ、復讐する気はないんだ。

復讐したって誰も喜ばない。それだけは覚えておけ。

僕は僕の罪を認めて償う為に生きる。

…お前の罪滅ぼしも少しは手伝ってやるよ。」



「本当に生意気なガキだな…肝が据わってて嫌いじゃない。

海神になるには修業を積まなければいけない。

そんな生意気な口きけないだろうな。」



「上等だ。」



「あ、これからもう1人か2人…山神候補が来る。

そいつらと一緒に修業を積め。

禍無絽、海音を連れて行け。」



「はい。かしこまりました。

海音様、こちらへ。」


海音は真剣な目をしながら禍無絽と部屋を後にした。



「綿津見、何であんな嘘を?」



「すみません。無気力で今にも死にそうだったので。

夢幻様の夢のせいに…。

閻魔大王様こそ、なぜ助けなかったんです…。」



「罪を作る為には犠牲が必要だろう。

言っていた通り、とことん利用される側なんだよ。」



「閻魔大王様は本当に罪深い方ですね…。」



「夢幻…今どこに…。」


閻魔は小さく呟き綿津見と部屋を出た。

















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