夢幻と真相

「夢幻…ッ…。」


海音はふつふつと怒りが湧いてきたのか顔が強張り歯を食いしばる。



「夢幻は地獄で生まれ地獄で育ったんだ。

今はあんなでも、小さい頃はとても素直でいい子だった…

だが、妖力が弱く産まれてしまって何の務めも果たせない。

それを地獄の妖達は無能だと揶揄した。

見かねた閻魔大王様は、皆を説得するまで夢幻を牢獄へ監禁したんだ。」




「…。」



「揶揄われても弱いなりに笑顔で仕事を手伝い…

1人でこっそり泣いていた所を閻魔大王様が見ていたらしい。

心を痛めた閻魔大王様が皆を説得できるまで夢幻を牢獄に隠しておいたんだろうな。

あの閻魔大王様が、たかが妖怪1人にそこまでするなんて前代未聞だから…

これも親のプライドだろうな…

だが、牢獄から夢幻が脱走した事件が起きた。

何者かが扉を開け…夢幻は地獄から出て人間界に降り立ち、

妖力を溜める為に人間や妖怪を喰い荒らし悪霊と行動を共にするようになった…。」



「だから何だよ…

そんな過去があるからって悪いことをしていい事になんてならない!」



「その通りだ。

夢幻は監禁されてから変わってしまった。

不安…恐怖に気持ちが飲み込まれ毎日怯えていたよ。

親に捨てられた子供の様にな…。

その件があって夢幻は閻魔大王様の事を目の敵にしている…

だから、1番強い負の感情で妖力を溜めているんだ…

人間も妖も負の感情に飲み込まれやすいからな。

本来は負の感情に飲み込まれると妖力は弱まるんだが…

閻魔大王様へのが強く、それが力になってる。」



「閻魔を殺すために僕の妖力を狙ってるって事…。」



「そんな所だろうな。

何度かお前の行動と村の偵察に来ていたんだが、

お前が助けた女の子はお前が人魚だという事に気づいていたが

誰にもお前の事は話していなかったし、あの海辺に近づいた人間はいなかった…。

ここからは俺の推測だが、

妖力が強い人魚が産まれたと噂になっているのを聞いた夢幻はお前を悪霊達に探させた。

人魚の数は少ないからある程度場所は絞られる…

あの村には人魚の伝承もあったから探すのは容易だっただろう。

そして手紙でやり取りしているのを見つけ、それを使ってお前を誘い出した…。

お前にどのくらいの力があるのか知る為に、悪霊の大群や人間との戦闘で見極めようとしたが父親が助けに来て失敗。

母親や王国の民達が人間に殺されても妖力使わないお前を見かねて、

夢幻は喰わずにわざと父親も含む皆を殺した…。

だが、お前の妖力が育ち切っていないことに気づきその場を去ろうとした…。

人間は元々殺すつもりだったんだろう…自分の力で操る人形に過ぎなかった。

夢幻の手のひらで踊らされていたって事だ。」



「僕の力を知る為だけに…お父様とお母様を…?王国の皆を…。」



「俺の推測だがな?閻魔大王様も同じ考えだろう。

どうしてもお前の力と不老不死の肉が欲しかった…

人間を喰ってその人間に成りすまして生きているから、肉体は衰える…。

夢幻だけじゃない…他の者も閻魔大王様を殺す為に、

お前を狙ってる奴が多いのも事実だ…。

閻魔大王様も敵が多い…上に立つ存在故だな。

修業を積めば妖力も強くなる。

海神の地位になれば雑魚共は狙う事をやめるだろうな。」



「でも、結局は僕のせいに変わりない…!

僕がもっと早くから修業してればこんな事には…」



「両親もお前の力には気づいていたと思う。

力を狙われる事を恐れて妖力の使い方をセーブさせてたんだろう…

息子に普通でいてほしい親のエゴとも言える…。」



「そんな…でも僕は…弱いって…

それに、全部見てたならもっと早くから助けてよッ!!」



「弱いか…この場から逃がしたかったんだろうな。

助けられるなら助けたさ…

偵察に来たのは事実だが、大体はウミガメに頼んでたし…

俺が見てたのは海神にふさわしいかどうかだ、

夢幻が関与してる事件が起こるなんて気づかなかったよ。」



「なんなんだよ…。」



「お前が出来ることは2つだ。

壱、修業を積み海神になって冥界の為に働くこと。

そうすれば強くなって、ある程度の雑魚はお前には近づかないし仲間もできる。

仕事をしながらだったら夢幻を探して復讐でも、海神として楽しく生きても好きにしていい。

弐、弱いまま1人で死ぬか…その二択だな。

お前の両親は壱を選んで欲しいだろうな…元は国王になるはずだったんだ。

それにお前の夢でもあるだろ?」



「くそ…ッ。」




「まぁ、ゆっくり考えるといい。翠海に着くのにまだ日数はかかるから。」



そして沈黙が支配する空気の中、歩き続けた。

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