首狩り男
学生作家志望
恐怖
「ああ!怖い…怖いよ…。」
「お父さん、痛いよ。そんなに掴まないで」
「ごめんね。だけど、本当に怖いんだよ…」
僕はまだ怖いって感情すらまともについていないほどに幼い子供だったから、お父さんが僕の足にしがみついて泣いていたのにも何も思わなかった。
僕が住む山奥にある小さな村。最近ここら辺で埋められた人間の首が大量に見つけられているという。
手がかりは、男、それだけ。
村の人々は犯人を、「首狩り男」と名付けて、遠い警察署の人と捜査を進めている。
だが、その懸命な捜査も虚しく、結果はまた1人の首が見つかるだけに留まった。
「もっと、頑張って探さなきゃだね」
とは言ってみたものの、お父さんの気力はとっくに切れていた。まあ、無理もないと思う。だって、今回の首は、お父さんの妹、僕にとっての叔母にあたる親戚だったからだ。
「じゃあ、いいよ。僕、探してくるから寝といて」
「ダメだ!1人で行っては…」
「大丈夫だよ。村の人だってそこら辺にいっぱいいるんだから。」
「ダメだ、出ていってはダメなんだ!」
ダンッ!
ふすまを開けて、雪の降っている道を僕はただひたすら走っていった
「まったく…僕はもう子供じゃないんだぞ…もう9歳にもなる。1人で探すくらい慣れっこさ。」
「うわっっ!!!痛っ…。何これ、なんか変な膨らみ…」
山だから決して道は平坦じゃない。しかし、その膨らみは明らかに山だからという曖昧な理由で言い訳できるものではなかった。
「これ…もしかして。」
「君。そこで何してるの、ここは危ないよ」
「誰…?ですか?」
「もう夜だよ、帰りなさい。」
「なんでだよ、おかしいだろ?あんたこそ日暮れに1人で歩いてる癖に、なんでそんなことが言えるの?」
「僕は、君みたいな怖いもの知らずが嫌いなんだよ…。さっさと帰れよ」
「怖いもの知らず?変なんだ。僕は人より感情ってのが弱いみたいなんだ。」
「頭良さそうだね君。僕の家にはね、大量の死体があるんだ。それを一個一個、ナイフでゆっくり…なんてことも君には簡単に想像ができそうなもんだ」
「そんな気持ちの悪いことは考えないよ。それに、大量に死体を放置してるっていうなら、それは嘘。あんたさ、本当は首狩り男じゃないでしょ?」
「あ…あ、眠っ…、夢か…」
「あああ!怖いよ…怖い!」
「もういいよ、お父さん。感情は弱くても痛さは感じるんだよ?怖さなんて僕はもう感じないのに!ずるいよ。ずるいよ。」
「叔母さんを殺したのもお父さん、村の人を殺したのもお父さん、僕の感情が弱いのも…いや、弱いふりをしなきゃいけないのも、全部お前のせい!」
「最近悪夢だって見るようになっちまった…。その中でも僕はずっとお前のために、バレないために、感情が弱いって言ってるんだ」
夢で見たふすま、やっぱり僕の住む家だ。だけど、村の人はもちろんいない。誰もいない山の奥なのに、いつも首がない死体だけが家にやってくるんだ
感情を押し殺さなければ、お父さんは逮捕される。僕が全てを吐き出してしまえばそれで全てが終わり。
いい加減、警察に怯えながら誰もいない山を転々とするのは疲れたようで、お父さんにはその気力は残っていないようだ。
「もういい。首を埋めに行くぞ。ついてきなさい。」
身体が震える。お父さんが僕を殺さない事に対しての違和感はあった。だが、理由を知ろうとはわざわざしなかった。
長いこと歩いて、やっと1人の畑仕事をする男を見つけて、お父さんは嬉しそうにその男の首をナイフで切り裂いた。
首狩り男の仕事が始まった─────
首狩り男 学生作家志望 @kokoa555
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