第2話 バトンタッチ

 スミレ町の歩道を占い師として歩いた。あたりに立っている家は、この世界のどこにでも立っているような2階建ての家だった。

 修理が行き届いていないのか、外壁の塗装が剥がれた状態のまま残っているところもある。それは少し強い風が吹いたら、飛んでいきそなほどだった。

 町を歩いている人たちは、痩せ細っていた。服もボロボロでしばらくは洗ってないか、新調できないできるようだった。


 -ざっと魔族が介入して10年以上だな。

 なら、ここに住む子供達は、生まれて時から魔族の支配が当たり前になってしまっているはずだ。


 占い師のライダーは辺りをキョロキョロと見渡した。すると、ゴミ捨て場の前の井戸で体育座りをしてうずくまっている少女を見つけた。


「どうしたのじゃ」


 占い師のライダーはその少女に近づき喋りかけた。


「おじさん誰?」


「旅の占い師じゃ。お主がこんなところで座っているから心配で話しかけたのじゃ」

 

 そう言いなら、占い師のライダーは井戸の中をのぞいた。水は入っておらず、底が見えた。


「お腹すいてるの。動くと余計な体力使うでしょ。だからここでじっとしてるの」


「なにも、ゴミ捨て場の近くじゃなくても良いじゃろ」


「町の人がたまにここにゴミ捨てにくるからね。残飯が残ってるかもしれないでしょ」


 その言葉は、占い師のライダーの心をえぐられた。悲惨だ。地方はこんなことになっているのだ。


「まだ未来を絶望する年では無かろう。ほれ、どのカードかいってごらん」


 占い師のライダーは3枚のカードを裏返して少女に見せた。


「なにそれ」


「占い師じゃよ。ワシの占いは十中八九当たる。界隈じゃ有名な話じゃ」


「一番右」


 少女は即答した。あまり信用されていなのかもしれない。

 そう思いながら、占い師のライダーは3枚のカードのうち一番右のカードを表にひっくり返した。

 そこに書いてあったのは『勇者』の二文字。不思議そうに見る少女。占い師のライダーはそのカードを差し出した。


「どう言うこと?」


「勇者の到来を予言するタロットカードじゃ。意味は『明日町に来る勇者に助けを求めれば、町はまた発展する』じゃ。勇者がスミレ町を助けてくれのじゃ」


「本当? 明日は朝からスミレ町の前で待っとくね」


 少女は少し元気良くなったみたいだ。この世界で職業:勇者を知らないものなどいない。魔王軍から人々を守る英雄として、どこに行っても、誰に聞いても崇めらる存在なのだ。


 占い師のライダーは少女と別れると、スミレ町から外に出た。

 もう町に要はない。

 最後に自分が行った工作活動を思い返した。


 やることはやった。あとは選手交代。表舞台はブレイド率いる勇者パーティに託す。


 占い師のライダーは、スパイのライダーに姿を戻した。この姿が一番動きやすい。

 一飛びで木の頂上の枝に降り立つ。そしてまた次の木の枝へと飛んだ。

 ブレイドたちもスミレ町の近くまでやって来ているはずだ。報告に行く時間だった。




 その日、ブレイド率いる勇者パーティーは、スミレ町の麓にある旅人小屋に泊まっていた。旅人小屋とは、この世界で魔王討伐パーティーや、商人、放浪者、迷子になった人などが訪れる無料の一軒家だった。元々は魔族や魔物、ゴブリンといった人間に害をもたらす種族から身を守るために、作られたものだそうだ。光属性の結界が張ってあり、小屋は人間にとって安心の休憩地点なのだ。

 

 ブレイドにはいつも夜に瞑想をする習慣があった。集中力を高める修行にもなる。職業:勇者は何かと忙しいため、一人の時間が必要だった。

 わずがな魔力のズレ。瞑想を妨げるものが、天井裏からささやく。


「月明かりを頼ってここまで来たのか?」


「ああ、今宵は三日月。俺にとっちゃ十分な明るさだ」


 ライダーの声だ。


「ふっ。相変わらず変わった奴だ」


 ブレイドはそう返した。


 部屋にいるのはブレイド一人。なのに声は二人分聞こえる。側から見ればそうにしか思えない。だが、ブレイドにも天井裏にいるライダーにもこのやりとりは慣れていた。

 ライダーに関しては、自分の姿を見られない方が落ち着くのだ。


「で、次に俺たちが向かうべき場所を聞こうか」


「スミレ町だ。すでに工作は済んでいる。ほらよ」


 ライダーはそう言って天井の隙間から地図を落とした。


「スミレ町の入り口に一人の少女が勇者を待っている。そこからが物語のスタートだ」


 ライダーは自信満々にそう言った。

 いつも通り100パーセント成功するシナリオになっている。


「ありがとうライダー。おかげで今日も安心して寝れそうだ」


「なんのこれしき。グッドナイト、ブレイド。俺はあんたが魔王を倒す為ならなんだってやる」


 ライダーにとってブレイドの夢が自分の夢だった。あの時ブレイドがいなければ、ライダーはとっくに死んでいたのだと自覚していた。だから、ライダーにとって旅は楽しむものではない。ブレイドへ恩を返す為の旅だ。


 ブレイドはライダーの気配が、天井裏から消えたのを認知した。

 ブレイドは安心したのか、大きくあくびが出る。布団に入った途端に眠気が襲って来て、いつまにか眠っていた。

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