短編ホラー…ぽい?
藤本敏之
死んだ後の話
生物は産まれて死んでゆく…一言で言ってしまえばそうなるが、死んでからどうなるのかは解らない。ある人は言う。
「地獄巡りしてきた。」
「天国というところを見てきた。」
果たしてそれは万物にあるのだろうか?例えば閻魔大王が天国と地獄への裁判をすると教えられる仏教において…
「お前は天国、そっちは地獄行きだ。」
等と決めていると言うが、言葉の解らない人間以外の生物…特に意思疎通の出来ない生物に対してもそれは行われるのだろうか?そもそも…これを書いている作者は仏教は嫌いだし、地獄があるとも、天国があるとも思っていない。なら作者はどう思っているのか?それを書いていこう。
とある男がいる。犯罪に手を染めて、兎に角人に迷惑をかけてきた…わけでもなく、普通に生きたいように生き、死ぬことはまだまだ先の話だと思っている男だ。唯一、精神に疾患があり、40代にもうすぐなる男。よく空想で可愛い女の子が目の前に現れないかとか、美味しいレストランで優雅にランチでも食べたいなぁ…そんなことを考えながら、別に裕福でも貧乏というわけでもなく、毎日を平凡に生きている。そんな彼がふと思った。
「死んで生まれ変わりたい。」
精神を病んでから偶にふと思う。死んだら楽なんだろうなぁ、体の節々が痛いのから開放されたいなぁ…仕事したくないなぁ…好きな事に没頭しているわけでもなく、何気ない毎日を送っている彼は、思うことは楽に死にたい…そんな一点を見据えているだけ。家族に安楽死させてくれとせがんだことも一度や二度ではない。自殺も考えたし、道行くガラの悪そうな人にわざとぶつかり、殺してくれないかなぁと思うこともあった。それでも未だに死ねていないのは、根っからの性分で痛いのは嫌だ…怖いと思うこと。本人が死にたいと思っていても、いざ刃物を持っても自身に突き立てる勇気はないし、道行く人を避けて通る、高い所や駅のホームに立って飛ぼうとしても、高所恐怖症で足が前に出ない。いっそアレルギー体質なので海老や蟹を食べてアナフィラキシーを発症しようとしたが、蕁麻疹が出て痒みが起こるだけで死ねもしない。毒のある食べ物に手を出そうと思っても、どれを食べていいやら調べもしない。毎日を憂鬱に過ごしているうちにどうでも良くなり、
「あぁ、また死ねなかった…」
そんなことを考える。本人曰く…
「神はまだこっちに来るなと言っている。」
と言うが、ただの根性なしと言える。生物の約半分は異性だから勇気さえあれば告白して異性と付き合えるかもしれないし、好きな食べ物は仕事してお金を払えばいくらでも食べれる機会がある。何にせよ死にたいと思いながら生きているのは普通では無いが…
そんな彼が突然死んだ。死因は脳梗塞。病気だ。元々不摂生で糖尿と診断されてはいたが、彼自身そう診断されたのは最近だし、至って元気…ではあったのだが。寝ている間に死んだので、本人も死んだとは思っていないんじゃないか?等と家族は思いながら涙を流していた。
それはあくまで死んだ本人の家族の話。死んだ本人は…普通に動いていた。別に何かあるわけではない。今流行りの転生、転異をしたわけでもない。彼は…現実の世界と同じ世界で…普通に暮らしていた。家族に朝起こされ、食事をして、偏頭痛に悩まされながら仕事に行き…何の変哲もない、変わらない毎日を過ごしている。ただ…認識していないだけ…そう考えるのが妥当といえるその現状を、確認する方法を彼は持たないし、彼の家族も誰も持ち合わせてはいない。眠って次の日は翌日というように、死んでも別の自分に魂と呼べるものが移行するだけで、無限ともいえる悠久の時間だけが過ぎている…そうなっている…そうとしか思えない。
途中で終わった人生は、どんどん過ぎているだけなのでは?また、寿命で死んだ人は、また同じ人生を無限に味わっているのでは?事故で死んでもまた少し遡って、今度は事故に遭わずに生きている世界にいるのでは?
もしかすると本当に閻魔大王や神が救ってくれる世界もあるのかもしれない…だが…死んでからしかそれは解らない。ただ…私は私。1人しかいないし、その結末さえもわからないのである。
短編ホラー…ぽい? 藤本敏之 @asagi1984
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