逃げる王女と追う執事、時々魔法使いの明けない心

かがみゆえ

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 あの日、一瞬でわたしの世界は奪われた。


 あなたはあの日、一瞬で自由を奪われた。


 わたしのせいで、幼いあなたに背負わなくて良かったものを背負わせてしまった。


 わたしの側に一生いると、あなたは忠誠を誓わされた。


 あの日がなければ、あなたはわたしの側にいることはなかっただろう。


 わたしという存在に縛られることもなかったでしょうに。


 あなたがわたしの側にいるのは、義務……。


 そこにわたしへの情はない。


 それ以外に、何もない。


 分かっていたけれど、それでも良かった。


 だって、わたしは―――……。





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「―――ご結婚おめでとうございます」


 今ではもう当たり前になった嘘臭い笑みを浮かべて、お前は言った。

 一番言って欲しくなかった言葉を、一番言って欲しくなかったお前が言った。


「嬉しくない」


 櫛でわたしの黒髪を丁寧に梳かしながら、いつものように「本日のティータイムは……」と何ともないように言い放つ。

 ……この話はやめろ、大好きな時間が嫌いになる。


「おめでたいことではありませんか。カンワストン国の第一王子とご結婚なさることは我が国ジョヴィルと同盟を組むことになり、ジョヴィル国の平和維持と地位の貢献に繋がります」


 わたしの思いとは裏腹に、お前は言葉を続ける。

 わたしの後ろでお前はわたしの髪を梳かしているから、表情は見えない。


「わたしは道具じゃない」

「分かっております」

「お前は何にも分かってないよ」


 淡々とわたしにとってどうでも良いことをお前は長々と喋る。


「会ったこともない知らない男と政略結婚なんて冗談じゃない」

「直接会ったことはないかもしれませんが、存在は知っているでしょう。カンワストン国の第一王子ですよ」

「興味ない」

「明後日にはカンワストン国の王妃になるのですから、きちんと自分の夫になる方のことは頭に入れておきましょうね、―――グレース王女」

「………」


 わたし・グレースは明後日、16歳の誕生日に結婚する。

 何が悲しくて、16歳になったと同時に結婚しなくちゃならない。

 もうずっと前から決まっていたことだけど、未だに実感が湧かない。

 どうして、親が勝手に決めた自分が想ってもいない相手と結婚させられなくちゃならない?


 それはわたしが、このジョヴィル国の第一王女だから。


 ……何て、くだらない理由なんだろう。


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