初心者向けE級ダンジョン『始まりの洞窟』が実はSSS級ダンジョンだと俺だけが気が付いている

街風

第1話 E級ダンジョン『始まりの洞窟』

 日本にダンジョンが誕生したのは今から50年ほど前。

どこからともなく現れたダンジョンには、ファンタジー作品でしか見たことないスライムやゴブリンなどが確認され、それと同時に未発見の物質や鉱物なども多く発見された。


 ダンジョンの発生に世界は大騒ぎとなった。理由は未だ判明してないがダンジョンが発生したのはことも大きく影響していた。未知なる可能性を秘めたダンジョンという資源の独占を恐れた各国はすぐさま日本に調査員を送り込み、かつて観光大国だった日本は、世界一位の資源大国として認識されるようになった。


ダンジョンは調べれば調べる程不思議な存在で、採取した鉱石は暫く放置したらリポップするし、モンスターも絶対ダンジョン内から出てくることもない。

研究者たちは、ダンジョン発生からずっとその謎を追っているが、未だに確信は得られていないという。


 そんな不思議だからけのダンジョンを100か所以上抱える日本はいまや冒険者たちの憧れの聖地となっている。


冒険者とはダンジョンを攻略する者たちの総称だ。ダンジョン内は危険なモンスターが多く、従来の火器類の効き目が極めて弱いことで知られている。


 そこで活躍をするのが、スキルという新たな力に覚醒した冒険者の存在。彼らはダンジョン発生とともに現れた、特殊な力に目覚めた新人類ともいえる者達で、強力なスキルの力を使いモンスターを駆逐する。また、スキルを獲得した人は身体能力も大幅に強化される。


生まれながらにスキルを持っている人もいるらしいが、そのほとんどはある日突然に覚醒する。


 俺こと、佐久間アキラもその一人だ。

つい先日、俺は自分がスキルを獲得したのを自覚した。きっかけは、突然だった。普段どおり眠っていたら、身体がビリビリしびれるような感覚に襲われて飛び起きたら、スキルを獲得していた。


その名も「インビシブル」

自身を周囲から見えなくして、気配なども消すことができる隠密系のスキル。いわゆる透明人間だな。


試しに発動してみると、全身が空気のように透けていく。鏡で姿を確認すると自分でもどこにいるのか分からなかった。

着ている服も透過されていたので、触れているものも一緒に透明にできるということだろう。



最初は地味だなと感じたが、バレることなくモンスターを後ろからグサっと殺せる可能性に気が付いて中々有能なスキルではないかと思っている。


はやく実践で試してみたいと思った俺は、次の日学校に登校して、クラスメイトの南雲海斗に声をかけた。


「海斗聞いてくれよ、俺もついにスキルを獲得したんだ。これで冒険者になれる!」


「ええ、まじかよ。おめでとう。ずっと冒険者になりたいって言ってたし、良かったな」


そういって、海斗は俺のことを祝福してくれる。

海斗とは入学から3年までずっと同じクラスだった親友だ。こいつは本当にすごい奴で、史上最年少でS級冒険者となった天才だ。


冒険者にはランクがあってE~SSランクまで存在する。

A級を超えれるのは天才とうたわれる者の中でも一握りなので、10代にしてS級まで駆け上がった海斗がいかに規格外かが分かると思う。

オマケにアイドル顔負けのイケメンで、性格も良い。友達だから許してるが、これが他人なら毎日顔面爆発しろと恨みながら呪っているところだわ。



俺がスキルを獲得したと聞いて、海斗は期待のこもった目をむけてくる。


「なあ、いったいどんなスキルを獲得したんだ。はやく教えてくれよ」


「ふっふっふ、それは一緒にダンジョンに行くまで秘密だぜ。絶対驚くと思うよ。ある意味男のロマンみたいなスキルだからな」


悪用しようと思えば、女子の更衣室などのぞき放題だ。しかし、ダンジョン外のスキルの無断使用はばれたら重罪なので、するつもりは毛頭ないけれど。

俺がスキルを秘密にすると、海斗は不満そうな表情をする。


「ちぇ、勿体ぶりやがって。しゃーねえ、いいぜ。放課後一緒にダンジョンに行こう。初心者用のダンジョンが学校の近くにあるし、俺様がそこで先輩として冒険者のイロハを教えてやるよ」


「ああ、お願いするよ。やっぱモンスターと戦うとなると一人では不安だし。おっと、でもあんまり期待するなよ。お前のスキルみたいに戦闘に特化してるわけじゃないから」


「まあ、E級ダンジョン程度余裕でクリアできるから余裕でしょ」


俺と海斗が放課後のダンジョン攻略の予定について話をしていると、同級生の清水咲良が声をかけてきた。


「また二人で変な悪だくみしてるんでしょう? 私にも教えてよ」


「だめだめ、これは男同士の秘密の会話だからな。女子には口が裂けてもいえない。なあアキラ?」


「んー、ああ、たしかにそうだな」


そう答えると、咲良は呆れたよな視線を俺に送ってきたので、慌てて目をそらす。


咲良とは小学生のころからの幼馴染だ。

咲良は昔から非常にモテる。

肩まである艶のある黒髪。くっきりとした二重に大きな瞳。

スタイルも抜群で、学校中の憧れのマドンナだ。


そんな咲良だが性格は意外とおおざっぱというか、平気で俺を殴ってくるような野蛮な女だ。もちろん、他の人にはそんな振る舞いはしながいが、俺とは腐れ縁だからか、遠慮のない行動をしてくる。


けれど、咲良とは最近めっきり会話をしなくなっていた。

理由は、咲良と海斗が付き合っていると、風の噂できいてしまったからだ。正直、幼い頃から付き合いのある咲良が、俺の親友と男女の関係と聞いてどう反応すればいいか分からず、自然と距離を置いてしまった。


咲良に見られて若干気まずくなってきた俺は、慌てて席から立ち上がり言った。


「授業が始まる前にトイレいってくるわ」


「あ、待ってよアキラってば・・・・・・もう」


不満そうに見つめてくる咲良を置いて、俺は教室を飛び出した。




―――放課後。


俺は海斗と一緒に初心者向けのE級ダンジョンに訪れていた。


「わー、ここがダンジョンか」


初めてのダンジョン攻略に俺は感嘆の声をあげる。ずっと夢にみていた冒険者としての第一歩だ。緊張するなという方が無理というものだろう。

周囲を見渡すと、ダンジョン周辺は森林で囲まれていて、その中心地点に岩石でできた大きな洞窟があった。この入り口から地下に続いていくのだろう。


海斗が俺にこのダンジョンについて詳しく説明をしてくれる。


「初心者向けのダンジョン『始まりの洞窟』だ。難易度は最低のE級。スキルさえあれば誰でもクリアできる」


「はじまりの洞窟って呼ばれてるのは、初心者が通うから?」


「ああ、この地域周辺で冒険者デビューする奴らは皆ここからはじめるのさ。ダンジョンには難易度EからSSSまで設定されている。ランクの基準は同ランクの冒険者が単独で攻略できるかだ」


「それは知ってる。SSS級ダンジョンは確か6つ存在してるけど、誰も攻略できてないから冒険者もSSランクが現状最高位なんだよね」


「そういうこと。けどアキラはまだ駆け出しのEランクだから気にする必要はないさ。だからさっさとモンスター倒してもっと強くならないとな」


「ああ、頑張るよ」


「最初は俺がモンスターを倒すから、アキラは俺の後についてきてくればいい。行けそうだとおもったらバトンタッチするわ」


「りょうーかい」


そうして、俺は人生初めてのダンジョンへと足を踏み入れるのだった。




その後、俺は海斗についてまわり、ダンジョン内を攻略していった。

初心者向けということもあり、モンスターはスライムや角の生えたウサギなど定番の雑魚モンスターした現れなかった。


ダンジョンでは武器の携帯が許されており、海斗は日本刀を使ってモンスターを悉く始末していった。重火器などは何故かモンスターにあまり効果がなく、スキルを会得した覚醒済みの冒険者が刃物や鈍器で倒すのが一番効果的と言われている。


理由は不明だが、スキルを獲得した人間は未知のエネルギーを無意識で操っており、そのエネルギーがモンスター達へ非常に有効なのではないかという仮説が立てられている。


俺も、今回のダンジョン用に小型のナイフを持参してきた。

スキル「インビシブル」との相性を考えると、扱いやすくて不意打ちをしやすいナイフの方が良いと思ったからだ。


ここまでの海斗の戦闘を見て、これなら自分でも戦えそうと感じた俺は、そろそろ戦闘を代わってもらおうかと考える。しかし、このまま俺のスキルを披露するのは味気ない。せっかく透明人間というビックリ人間みたいなスキルなのだから、どうせなら驚かしてやりたいというものだ。


(ふふふ、いきなり目の前に現れたら飛び跳ねるだろうな)


そこで、俺は海斗が目を離した隙に、スキルを発動してダンジョン内にあった岩影に隠れた。


(やっぱり、このスキルは有能だ。S級冒険者にも気配を察知されずに隠れることができる)


いつの間にか俺が姿を消したせいで、海斗はきょろきょろと当たりを見渡している。


「おーい、アキラー。どこに行ったんだよ! かくれんぼなんて子供みたいな真似するなよ。どうせ俺が本気をだしたらすぐみつかるんだから諦めてでてこいよ」


そう言うが、アキラが俺を見つけれそうな気配はない。


(ははは、S級冒険者様が必死になって探してら。でも流石にこれ以上は可哀そうか。後ろから声をかけておどかしてやろう)


そう思って、俺が腰をあげた時だった。


ピチ、ピチ・・・・・・


と液体が垂れるような音がダンジョンの奥から聞こえてきた。

その音は俺達の方へと向かって近づいてくる。


ピチ、ピチ・・・・・・


ピチ、ピチ、ピチ・・・・・・・・


ピチ、ピチ、ピチ、ピチ・・・・・・・


海斗も気が付いたのだろう。

音のする方を警戒して刀を構えている。


そして、そいつは姿を現した。


(な、な、なんだよあれ!)


ダンジョンの奥から現れたのは全身泥にまみれた巨人だった。


「あああれえええええええ、話し声がしたから2人いると思ったけどおおおお、一人だけかあ」


泥をまき散らして叫ぶ巨人は高さ4メートルはあろうかと思われるほどの巨大な化け物だった。

水っぽい泥に覆われて肌はいっさい露出していない。

目と口の部分には大きな穴が開ており、穴の奥は真っ暗な空洞だった。


(あのモンスターしゃっべったぞ。たしか、言葉を喋るモンスターって相当高位の奴だけだろ。なんでそんなのがE級ダンジョンここににいるんだよ!)


海斗も同じことを思ったようで、額から汗を流して焦った様子で叫んだ。


「貴様、何者だ! どうしてお前みたいな高位モンスターがいる!?」


「えっへっへっへ、それはあああ褒めてくれてるのかなあああ?」


泥の化け物は、なにが嬉しかったのか不気味な笑い声をあげる。

その態度がイラついたのか、海斗は舌打ちをして刀を構えた。

そして、スキルを発動させる。


「スキル『業火』。お前はここで殺してやる」


海斗を中心に炎が広がる。

これが海斗のスキル業火。炎を発生させて自在に操るという非常に強力なスキルだ。このちからで海斗は最速でS級への成りあがった。


(そうだ、海斗ならあんな化けものすぐに始末してくれる)


俺は恐怖で全身が震えるのを我慢して、2人の戦いを見届ける。

正直、今の俺に出来るのはそれしかなかった。あの泥の化け物を見た時から、得体のしれない恐怖で動ける気がしない。

でも、大丈夫だ。ここは所詮Eダンジョン。S級の海斗が負ける筈なんてなにのだから。


俺は恐怖に負けないように自分へそう言い聞かした。







・・・・・・・しかし






・・・・・・・その僅か数分後、







俺の視界の先には、泥で身体を貫かれて死んだ海斗の死体が転がっていた。




「ああははははははああああ、想像のおおお100倍くらい強かったぁ。今回は大当たりだああああ」


そういって、海斗を殺した泥の巨人は



「じゃああ、復活させてあげるね」


と言って、海斗の死体を泥で包み込んだ。

すると、先ほどまで動かなかった海斗の死体が突然動きだした。しかも、腹にあいていた穴も、傷一つなく再生している。


(嘘だろ、何が起きているんだ!?)


俺は恐怖で叫びだしたい気持ちになったがどうにか我慢する。ここで存在がばれたら俺も同じ目にあうにちがいなかった。


泥の巨人は終始ウキウキした様子で海斗の体をいじくりまわす。


「ちょっとおおお記憶を見せてもらうねええ。ふーん、わあS級冒険者だ! これはSS級冒険者以来の大当たりだ。ふふふ、じゃあ君には色々役にたってもらおうかな」


死んだはずの海斗に、泥の化け物が声をかける。そして、死んだ筈の海斗がそれに答えた。


「・・・・・・・ああ、ああああ。ごほん。はい、任せてください」


おれには何が起きているのか理解できなかった。

確実に海斗は死んだはずだった。

それなのに、あたりまえに喋り、あたりまえに動いている。


泥の化け物は海斗の返事に満足したのか、何事もなかったように来た道を戻りはじめる。その後、海斗もダンジョンの入り口へと向かって歩き出した。


スキル「インビシブル」を発動したまま、俺は岩陰に隠れ続けている。

はたして、何が目の前で起きたのか。生き返ったあれは、本当に海斗なのだろうか?

もし違うというのなら、海斗の姿をして行動するアイツの正体は何か?


いくら考えても答えがでないまま時間が過ぎていく。

結局、俺が一人でダンジョンをでた頃には、完全に日が沈んだ深い夜の時間だった。



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