【急募】美少女になってしまった親友に、オトされないための方法~親友の無自覚な誘惑に、俺は陥落寸前です!!~

夏歌 沙流

第1話 『何があっても』俺たちは友達

「なー、てっちんー」

「どうした、彩人ー?」


 中学校の卒業式、俺――『てっちん』こと天童てんどう哲俊てつとしは友人の伊達いだて彩人あやとと一緒に公園のブランコを漕いでいた。


「オレたち、いつまで一緒にいるんだろうな?」

「さぁ……高校も結局同じだし、少なくとも10年は確定したな」

「それ。まったく、長い付き合いだぜ」


 彩人と俺は、お互いに顔を見合わせておかしそうに笑う。小学校から高校まで、ずっと二人で遊んでいたのだ――いつしか俺の横に彩人がいない方が不自然に思うぐらいには、俺たちは何をするにも一緒に居すぎている。

 

 彩人と出会ったのは小学校に入ってすぐだった。入学式のとき名前の50音順で席に座っていた俺は、前の方に座っている派手な色の髪をした一人の男子生徒にすぐに目を引かれた。


 なんせ髪の毛が真っ白なのだ、『アルビノ』という病名を知ったのは中学校に上がってからだったが――当時の俺は馬鹿正直に「かっけー!」と目を輝かせていたのを覚えている。


 だがやはり目立つのか、彩人はすぐにいじめのターゲットになってしまった。いつも被っていた帽子を隠されたりとか、肌が白いことや赤い目を馬鹿にされたりとか――『自分と違う人もいる』という事実を受け入れるには、小学生の精神年齢では若すぎたのだろう。


「こらー! いじめるなー!」

「うわっ、来たよ。お前こいつのこと好きなのかよ、やーいホモホモ~!」

「ホモじゃねー!」


 そんな彩人を庇っていたのが俺だ。当時の俺はすごく単純で……「かっこいいものはヒーローだ」と思っていたもんだから、そんなヒーローをいじめるのは怪人だ!といじめていた小学生を追いかけまわしていた。


 まぁ、俺もガキだったから『ホモ』って馬鹿にされた方にすぐ怒りの矛先が変わっていたというのもあるが――まぁ、そこから不思議なもので今でも彩人との縁が続いている。


「聞いたぞ彩人、卒業式の時に女子に告られたのを『てっちんと遊ぶ時間が減るから無理』って振ったって?」

「だってしゃーねーだろー? 一回も話したことのない女子からの告白なんて、完全にオレの外見目当てじゃん」

「おいおい、案外普段のお前の学校生活見て気になってたのかもしれないぞ?」

「お前とずっとオタク会話してただけの三年間を見てか? 遊ぶにしても学校行事を回るにしてもお前とばっか行動してたのに、ねーよ」


 笑いながらブランコに勢いをつけて飛ぶ彩人。地面にきれいに着地したあいつは、挑戦的にこちらを振り返る……勝負しろってわけか。


「――やってやらぁ!」

「へっ、オレの飛距離に勝てるかな? てっちん!」

「抜かしてろっ!」


 俺も思いっきりブランコに勢いをつけて――飛ぶ! 結果は……


「く~! 俺の負けだー!」

「はっはっは! どうだ体育成績5だったオレの実力は!?」

「ははー、流石彩人様~……負けたしジュースでも奢ってやるよ」

「やりぃっ、微糖のコーヒーな」


 わずかに彩人に届かず、俺は勝者に近くの自販機で売っていた缶コーヒーを買って渡す。カコッと小気味の良い音を立ててプルタブを開けた彩人は、ぐいっと一口飲みながら公園にあるベンチに座った。


「はぁ~……やっぱ楽しいわ、てっちんといると」

「んだよいきなり、褒めても缶コーヒーは追加で出てこねぇぞ」

「自販機だって当たればもう一本出るのに?」

「じゃあ自販機褒めて来いよ」


 俺がそう言いながら横に座ると、それもそうだな~と彩人は自販機の方へ向かう。しばらくすると、彩人は一本のサイダーを持って帰ってきた。

 再びベンチに座ると、ほれっと俺の方にそのサイダーを渡してくる。


「自販機褒めたら出てきた」

「マジか、最近の自販機はすげぇなぁ~」

「オレにかかれば、金の力でいちころよ」


 げすい笑みを浮かべる彩人に、思わず吹き出してしまった。確かに、金を入れればジュースは出てくるな。

 俺たち二人は、サイダーと缶コーヒーを飲みながら何とはなしにボケーッと空を見上げる。


「……本当に、どこまで一緒にいるんだろうなオレたち?」

「永遠――はないかもしれないが、本当に話さなくなったり会わなくなったりする未来が想像つかない」

「わかる。なんか彼女とか作っても彼女よりオレを優先しそうだしな、てっちん」

「まず彼女が出来んのよ」


 あ、いっけね!と舌を出す彩人の頭を軽くはたく。こいつ中学に上がってから『アルビノ』の珍しさと顔の良さが相まって、中学の最後の一年間は割とモテてやがったんだよ。


 しかもこいつ、断る理由が全部『てっちんと遊ぶ時間減るから』って言いやがるからまーた俺にホモ説が流れてたんだぞ?

 わかるか? 体育の時間に他の男子と組もうとしたら、後ろ手にケツ隠されてそそくさと逃げられた俺の気持ちが!


 大げさに痛がる彩人を放っといて、サイダーをぐいっと傾ける。シュワーッと喉を抜ける炭酸の爽快感を楽しみながら、俺はふと思いついたことを彩人に提案してみることにした。


「……なあ彩人ー、神社行かね?」

「神社? そりゃまたいきなりだな。なんか神頼みするのかてっちん?」

「高校に上がって同じクラスとかだったら駄弁りやすいだろ? 折角だし祈っとこうぜって思ってさ」

「お、良いねそれ。んじゃ俺は『てっちんに彼女が出来ますように』って祈っとくわ」


 余計なお世話だ――とサイダーを飲み干した俺は、空のペットボトルでぺコンと彩人を殴る。

 やめろよーっと笑いながら彩人も缶コーヒーの中身をあおり、空き缶をゴミ箱に投げ捨てた。


 そして俺たちは公園を出て、適当に目に入った神社の境内に入る。どんな神様をまつっているかは分からないが、『友人と一緒にいたい』ぐらいの願いなんてどこの神様も聞いてくれるだろう。


 お賽銭を入れて、二礼二拍手。ネットで齧った程度の知識しかないが、中学卒業という節目だからかなんとなく丁寧にやってみたい気分だった。


「…………」


 隣で彩人も両手を合わせて何かを祈っている。俺も目を閉じて、神様にお願いをすることにした。


(彩人と、ずっと一緒にいられますように)


 こっぱずかしいが、こいつといると本当に気兼ねなくはしゃげるのだ。前にも後にも、彩人のような奴は出てこないだろうと思ってる。

 口には出さない、だって恥ずかしいだろ? 彩人にバレたら向こう10年はいじられる。


 しかし……こうして祈っていると後から後から欲が出てくる。彩人はアルビノのせいで目が悪いから視力を良くしてくれーとか、やっぱ彼女欲しい~とか。


 後でお賽銭追加でいれよ、と俺は思いながら目を開けて一礼する。同じく祈り終わった彩人が、いそいそとポケットから財布を取り出した。


「なんか、祈ってたら後から後から際限なくお願い事が増えるよな」

「おいおい強欲かよ……まあ俺もそうなんだけど」

「おいおい強欲かよ、てっちん~」

「うるせっ」


 俺たちはふざけ合いながらも小銭を追加でお賽銭箱に入れる。5円で神様も働きたくないだろうと、出血大サービスで500円だ。



 ――帰り道、彩人はいつになく真剣な顔で俺に話しかける。


「なぁ……てっちん。オレ、ずっとお前と友達だからな」

「んだよ急に?」

「いや、なんだ。さっき神社で祈ってて改めて思ってさ、いつもあんま言わないだろ? だからまぁ……なんとなくだ」

「恥ずかしいこと言うなよ……『何があっても』俺たちは友達、これでいいだろ?」


 手をひらひらさせてめんどくさそうに俺は返すが、ただの照れ隠しだ。まったく、彩人のやつ……


「春休みで俺と会えなくなるからって寂しがってんのかぁ~? ん~?」

「そっ、そんなんじゃねえよ! ただ高校に入ってもよろしくなってこと、それ以外にねぇ!」

「はいはい、んじゃまた高校の入学式でな」


 『また』。高校に上がっても俺と彩人はいつもと変わらない日常を送るだろう、競い合ったり、協力したり……たまにバカやって怒られたり。

 そんな日常がいつまでも続く――と、この時の俺は思っていた。


「ぐすっ……えぐっ……」

「あ、彩人……?」


 たしかに、『何があっても』とは言った。


「て、てっちんんんんんん~……」

「なっ、何があったんだ……?」


 だが、だがだ神様。さすがに――


「オレ……オレ女の子になっちまったああああぁ……」


 は『何が』がありすぎるだろ!?


 高校の入学前夜。彩人から突然のメッセージで夜の公園に呼び出された俺は、泣きじゃくりながら抱き着いてきた女の子を見ながら心の中で絶叫するのだった。


――――――――――――――――

【後書き】

 書きたくなってしまったので書いてしまいました……新作です。

 ラブコメ初挑戦なんですけど……これで良いんですかね!?

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