第3話 初体験




 ポメガバースやらオメガバースやら大仙人やら仙人やら仙界やら九尾の妖狐やら。

 こちとらもう、現代日本社会で生きていく為の情報しか頭に入れるつもりはありません心身共に容量が残っておりません。

 早く俺の世界に戻してください。


 そう冷静に願い出るはずだった栞太かんたはしかし、胸が熱くなるのを感じていた。


 大仙人に選ばれた。

 唯一無二の相棒。


 その言葉が己の胸を強く撃ち抜き、やる気を引きずり出したのだ。

 流石は大仙人というべきか。

 オーラが違う。

 彩雲、光環、光芒、光輪、二十二度ハロ、虹、環天頂アーク、太陽柱。

 ありとあらゆる、神々しい空の光をその身体から放ち、背負っているのだ。

 誰がそのような尊い大仙人の言葉を跳ね除けられようか、否。


「お任せください。大仙人様。凍夜いてや殿の唯一無二の相棒としての役目を確りと果たしてみせます」

「うむ。任せたぞい」

「はい」


 栞太かんたは不思議に思った。

 まるで誰かに操られているような感じがしたのだ。

 だって、こんなにやる気が出るなんて信じられなかったからだ。

 しかし、初体験というのはそういうものなのだろう。

 こんなにも強くやる気が出た初体験。

 すごい身体がふわふわしているのに、力がみなぎっている不思議な現象。






「あ!!!大仙人様!!!また宝貝パオペイを使ったでしょう!!!」

「え?」


 案内役の道士と共に去って行った栞太かんたを見送って、そう時を経たずして。

 掃除に来た仙人が大仙人を非難したのである。


「もー。また無意識に使ったんでしょう。宝貝パオペイ導香どうこうを」


 宝貝パオペイ

 実力のある仙人、大仙人のみが使用できる仙界の不思議で希少で貴重な道具。

 仙人、大仙人の仙力を用いて、使用する。


 宝貝パオペイ導香どうこう

 大仙人が常に持っている、木の杖。

 使用者の仙力、及びやる気を吸い取って、使用者の視界に入る者のやる気を引きずり出す香りを放ち、やる気満々にさせる。

 持続期間は生物それぞれ。一秒で途切れる事もあれば、一か月間続く事もある。

 術を解く方法は、今のところ時間経過のみである。


「違う違う。使用しておらん。あの異世界の少年が自発的にやる気を出しただけじゃ」

「じぃーーー」

「うん絶対使用しておらん。わし、使用していません。これはただの杖。うん。ほれ。使用された痕跡なし」

「………ならいいんですけどね。本当はやる気がなかったのに、導香どうこうの所為で、やる気を引きずり出されて、私たちの我が儘に付き合わされてはすんごく可哀想ですからね」

「我が儘って。まあ。我が儘だけど。うん。絶対。うん。あの異世界の少年の自発的行動。うん」




 多分。











(2024.3.2)



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