第19話

【ラリスタ視点】


「あれがアノス王子を騙して、リアラ様にいじめられたってウソを吐いた悪女か」


「なんか、クスリの売買や象牙の密売なんかも行っていたらしいぜ?」


「ほんと、クソみたいな悪女だな!」


 クソな群衆が、私を蔑み罵ってきますわ。

 

「う、ぐッ……」


 石をぶつけられ、フラッとしてしまいます。


「さっさと歩け!!」


「ぐッ……」


 今度は兵士の方に殴られてしまいますわ。

 なんで、どうして。

 どうして、私がこんな目に。


「それで、あれがアノス王子か」


「本当にバカだよな。あんな顔だけの女に騙されるなんて」


「でも、あんなマヌケが王にならなくて、本当によかったよな」


 群衆共は、アノス様も罵ります。

 数日までは慕っていたハズなのに。

 少し落ちぶれただけで、こうも態度が変わるなんて。


 やっぱり、群衆ってクソですわ。

 私のかわいい顔に石や糞を投げるなんて。

 ……許せませんもの。


「ここに座れ!」


「ぐッ……」


「……」


 兵士に腰を蹴られ、地べたに座りますわ。

 こんな屈辱、味わってしまうなんて。

 ……覚えておきなさい。


「……はは、これでようやく……救われる」


 数日前から、アノス様は狂いましたわ。

 意味のわからない戯れ言を吐き、目は落ちくぼみ。

 以前の様な、威厳ある姿はどこにもありませんわ。


「……ちッ」


 そんな私たちの元に、3人の男性がやってきましたわ。

 1人は太った聖職者。

 残り2人は斧を背負い、鎧を纏った執行人。


「罪人、アノス・ルール・フォレスト及びラリスタ・ルリストだな」


「……」


「……あはは……」


「無言は肯定と捉える。汝らの罪を裁いてしんぜよう」


 執行人の斧が、私たちの首に添えられますわ。


「最後に何か言い残したことは?」


「……私は何も悪くありませんわ」


「はは……あはは……」


「愚かな。やれ」


 執行人が斧を大きく振り上げますわ。


「……私、本当に死にますのね」


 死の直前だからか、視界が広く感じます。

 群衆が私たちを揶揄し、嘲笑する様。

 貴族が私たちを指差し、嘲笑する様。

 空を飛ぶ鳥たちもが、私たちを嘲笑する様


 全てが、感じられます。

 そして────


「────お姉様」


 貴族の群衆の中に、お姉様を発見しましたわ。

 お姉様は口に手を当てていますが、それでもわかってしまうほどに口角を釣り上げて……。


「……嗤っていますの……?」


 下品なまでに、嗤っていましたわ。


 当然ですわよね。

 婚約者アノス様を奪い、いじめられたとウソを吐いた妹が罪を受けるのですから。

 自分よりも容姿が優れて、寵愛を受けてきた妹が死ぬのですから。

 それはそれは嬉しいことでしょう。


 ですけれど────


「……姉に嗤われるなんて、悔しいですわね」


 聞いたところによると、お姉様は第二王子と結婚するらしいですわね。

 私が得たかった王族との婚約を、再度果たすなんて。

 そんなの、許せませんわ。


 お姉様だけが幸せになるなんて、許せませんわ。

 私だけが不幸せになるなんて、許せませんわ。

 ワガママですけれど、姉の幸せなんて……望みませんわ。


 私だけが幸せになりたかった。

 私だけが全てを得たかった。

 なのに、なのに。


 現実は姉だけが幸せになって。

 私は不幸になって。

 こんなの、理不尽ですわ。


「お姉様……あなただけは許しませ────」


「────ふんッ!!」


 刹那────

 ────首がねられましたわ。

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