第16話

「アノスよ、この程度の情報をワシが知らんと思ったか? 貴様がリアラ嬢と婚約破棄をした日よりも、ずっと前にの」


「え、で、ですけれど、父上から何も聞いていませんよ……?」


「貴様の気持ちを尊重したのじゃ。リアラ嬢を捨ててまで、得たい女との暮らしを尊重し、あえて黙っておったのじゃ」


「で、ですけれど……」


「それに貴様と結婚することで、悪名高いラリスタの態度も変わると考えたルリスト公爵の考えもあり、あえて黙っておったのじゃ」


「そ、そんな……」


「それに気づかず、いけしゃあしゃあと証拠と称して見せびらかし、あげくの果てに婚約破棄じゃと?」


「ち、父上……?」


「お、お義父様……?」


「黙れ、貴様等との縁はここで切る」


「そ、それって……?」


 ため息が勝手に零れる。


「アノスよ、貴様から王権を剥奪する。そして、斬首刑に処する」


「ま、待ってください父上! そんなの……あんまりです!」


「黙れ、既に決定事項じゃ。次期国王は第二国王である、アルミに任命する」


「す、少し……少し間違えただけじゃないですか! この女狐に誑かされて、選択肢を間違えただけじゃないですか!!」


「人間は間違える生き物じゃ。じゃが、貴様の犯した間違いは、あまりにも重かった」


「そ、そんな……そんなこと認められませんよ!!」


「貴様の許可など必要は無い。このワシが決めたことなのじゃからの」


 次にラリスタに目を向ける。


「ひッ……!」


「ラリスタよ、貴様の罪を数えてみよ」


「わ、私は……罪など、重ねていません! ゼロです!!」


「……今後に及んで、更に罪を重ねるか」


 愚かな女じゃ。

 姉とは違い、何とも救えん。


「ラリスタ、貴様も同じじゃ。斬首に処する」


「え、ま、待ってください!! そんな!! 私は悪いことなんて、一つもしていませんわ!!」


「罪を更に重ねたの」


 ため息が零れてしまう。

 こんな愚かな女に惚れた息子にも、公爵家という恵まれた環境で腐ってしまったこの女にも。


「連れて行け」


「はッ!!」


 兵士に命じ、2人を牢に連れて行かせる。


「ち、父上!! 話を!! 話を聞いて下さい!!」


「お義父様!! 私の!! 話を聞いて下さいまし!!」


 兵士に引きずられ、2人は部屋を後にした。


「はぁ……」


 幾度目かもわからない、重いため息。

 良心が痛まないわけではない。


 腐っても我が息子。

 あんな風に育ててしまったのは、元はといえばワシが悪い。


 じゃが、それにしても……あれは酷い。

 最高峰の教育を容易したのじゃ、素質が悪かったようだ。

 

「……よかったではないか。互いに愛した物同士、最後の結末を共に迎えられて」


 誰もいない部屋で、ワシの呟きは空虚に霧散した。

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