いとしと書いて藤の花
鳥尾巻
土蔵
10歳の双子の
呆然としている間に、諸々の手続きは完了し、2人は緑深い
急激な環境の変化に悲しみを覚える暇もなく
「家や庭を探検してくるといいよ」と言われるまま、静は陽の後について、広い日本庭園に点々と置かれた黒曜の
その陰に隠れるように立つ白壁の土蔵を見つけたのは、静だった。黒い鬼瓦を冠した破風、置き屋根と白漆喰の塗られた
少年達は、町ではなかなか見ることのできない土蔵に物珍しさを覚え、中を覗いてみることにした。近づけば
石造りの
「どうする?静。下に降りてみる?」
「暗くて怖いからイヤだ」
好奇心旺盛な陽に比べ、静は臆病な
言い出したら聞かない陽は、止めても降りて行こうとするだろう。ただでさえ薄暗い蔵の中、冥府の底に続くような昏い階段の奥を、キラキラした目で見つめる陽を信じられない思いで睨む。
「おや、もうここを見つけたのか」
急に後ろから声を掛けられて、2人は文字通り飛び上がった。白髪交じりの髪を後ろに撫でつけた伯父は、叱る風でもなく目尻の皺を深め、楽しそうに少年達を眺めている。静は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。ちょうど良かった。君たちに紹介したい子がいるんだ」
そう言うと
「懐中電灯は使わないの?」
「強い光は駄目なんだ」
何が駄目なのか説明はない。微かに音を立てて燃える蝋燭の光はゆらゆらと揺れ動き、穴倉の中に降りて行くにはいささか心許ない。だが、尚克は頓着せず燭台を手に先頭に立ち、狭く急な階段を慎重に降り始めた。3人は下まで降り切ると、外壁と同じ白塗りの壁伝いに、狭い廊下を奥へと進む。橙色の光を放つ蝋燭の温かさとは裏腹に、揺れる影は彼らを喰らう怪物のように膨らんで、悪い夢の中にいるようだ、と静は思った。
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