第28話・心霊系YouTuber・ハッカ

 警察に「山にレンタカーが放置されている」との連絡があった。レンタカーは舗装されていない山道を登っている途中で脱輪していた。

 運転手の姿は周囲になかった――脱輪していたのは助手席側だったので、車をレンタルし運転していた人物は、車を降りて徒歩で山を下ったか、脱輪を確認している際に斜面を転がったか。


 警察がレンタカーのナンバーを照会し、レンタカー会社に連絡し、レンタカーは無事に回収されたが、車をレンタルする際に記入した携帯電話の番号に連絡しても、連絡がつかず、レンタルした人物は見つからなかった。


**********


 心霊系のYouTuberとして活動しているハッカは、怖々とレンタカーから降りた――車の車輪が外れた時、心臓が止まるほど驚き、このまま転がったらどうしようか! と、恐怖して一時パニックになった。


 幸い車体はバランスを保つことができたので、レンタカーから降りて、


「あ、スマホ」


 車から降りてから、スマホを持たずに降りたことに気付いて――真っ暗な山道で、助けを呼ぶにしても、自力で下山するにしても、スマホは必要なので、震える足や頬を叩いて気合いを入れてレンタカーへと半身を滑らせ、足元に転がったスマホと、撮影機材が入ったバッグを回収してレンタカーから離れた。


 スマホのライトで車を照らすと、微かに揺れているのが見え、ハッカは脱輪したレンタカーから離れた。


――レンタカーどうしよう


 外灯もなにもない山道で、ヘッドライトが点灯したままの脱輪したレンタカーのこのあとのことを考えたが、なにも思い浮かばなかったので、ハッカはそのまま山を下りることにした――現実逃避ともいう。


「…………」

 

 撮影機材が入っているバッグから、懐中電灯を取り出して、スマホを片手に砂と小石が入り交じった傾斜を下る。


「やっぱり圏外か」


 夜の山中、単身で頼れるのはスマホだけだが、その他よりのスマホも田舎の山の中では、あまり役に立たない。


「119番に……」


 心霊系を専門にしているので、夜の撮影は慣れたものだが、車を脱輪させたのはかなりダメージが大きく、119番に通報して助けに来てもらおうかと――そんなことを考えながら山を下りていたせいで、足元への注意が疎かになり、ハッカは転んだ。

 その際に手元からスマホが離れ、明かりを吸い込む暗い草に吸い込まれていった。


「スマホ!」


 レンタカーが脱輪したときよりも焦り、ハッカはまたもや足元への注意を疎かにして切り立った山道から、足を滑らせて斜面を落ちた。


 なだらかな斜面だったこと、つい先ほどスマホから手を離してしまったことだけは頭に残っていたので、ハッカは懐中電灯と撮影機材が入ったバッグから手を離さなかった。


 そしてに引っかかり、滑落から解放された。


 自分では落下を止められなかったが、止まってしまえば、自分で立ち上がることができる程度の斜面。

 落ちてきた方を見上げると、微かに明かりが見えた。


 その明かりに向かって叫んだが、返事はなく、明かりが動くこともなかった。


「119番通報しておけばよかった……」


 これは遭難したなと、ハッカはなだらかな斜面に座り込み頭を抱えた。


 その時、近くからラインの通知音が聞こえ、顔を上げてその音がした方角に懐中電灯を向ける。


「あっ! スマホ!!」


 そこには、先ほど落としたハッカのスマホがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る