第23話・謎の廃村『なごん村』

「吉川君、なごん村の都市伝説って知ってる?」


 全くお客がいない時間に、店長にそんなことを聞かれた。


「なごん村の都市伝説ですか? 犬鳴村なら知ってますけど」


 契約しているサブスクので犬鳴村の映画を観たから覚えている。


「知らないか」

「どうしたんですか?」

「甥がその廃村に行くって言ってて」

「廃村?」

「甥は動画配信をしてて”なごん村”とかいう廃村にまつわる、都市伝説を聞いたから、向かうって言ってると、姉から連絡がきてね。姉は検索してみたけど、なごん村の都市伝説なんて一つもみつけられなかったから、甥に近い年齢のバイトの男の子に聞いてみてくれないかって頼まれてね」

「……済みません、知らないです」

「謝らなくていいよ。”都市伝説”プラス”村”で検索しても、出てくるのは杉沢村だしね。吉川君、杉沢村って知ってる?」


 話をしていると、入店を知らせる音が聞こえたので、店長との話はそこで終わった。


 バイトを終えて、ファミレスへ。頼むメニューを替えるだけで、あとはいつも通り。



通知:1件

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「またか」


 なにかヤバめなアドレスを踏んだのか、SNSにおかしな書き込みがあり、こうして通知がくる。

 フリーWi-Fiを使用するためだけに使っているSNSなんだが……。

 通知を削除して、ソシャゲのログインを済ませてから、店長の甥が話していた”なごん村”について検索してみたが、見つからなかった。

 そして店長が言った通り「都市伝説と村」で検索したら、杉沢村がヒットした。


 2000年代初めの話だからか、記事が充実していているだけじゃなく、最近でも心霊系YouTuberたちがその杉沢村へと足を運んで動画をアップしている。


「YouTuberかあ……」


 以前、俺も動画配信をしていたが、登録者数が全く増えず収入にならなかったので、すぐに止めた。


 杉沢村関連の動画を見るために、追加で一品料理とビールを頼んだ。


通知:2件

ここだけ、手軽ニ儲けられるはナし

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**********


 バイトはシフト制ではなく固定制で、俺は午後4時から0時まで――店長から甥が廃村にいくと聞いてから、都市伝説関係の動画を漁っていたが「なごん村」は出てこなかった。


 店長に甥について少し尋ねた――


「もともと賢い子じゃなかったから、大学進学を目指すなら、高校二年の秋から塾にいっても遅いらしいんだけどさ」


 「進学先を決めろ」と強く言ったら「進学せずに動画配信一本でいきたい」と――


 店長の姉夫妻は息子の決断に反対したが、聞く耳を持たず。

 家から叩き出せばいいと他人は簡単に言うが、路頭に迷って無敵の人になり迷惑動画をアップされでもしたら――の特定班によって、家族が晒される恐れがある。


 そうなったら、終わりだ。


 じっさい昨日もバイトテロ動画がアップされ――コンビニバイトテロだったので、「本社から通達がきた」と店長から伝えられ「話をしっかりと聞いている人は、そんなことしないだろうし、するような人は言ったところで聞かないんだけどね」と、やる気がなさげだった。でも店長の言っていることは正しい。


 店長の甥だが、姉夫妻はネットの怖さを知っているので、否定はせず話し合いをして、息子に条件付でYouTuberをすることを許可した。


 まず第一に高校は絶対に卒業すること。


「高校三年から三年間で、YouTuberとして食べていけるようにすること。三年やってモノになれば良し。そうならなかったら、義兄の伝手で就職させるつもりらしい」


 そして期間を区切って「応援」することにした。


「姉たちとしては、三年でYouTuberで生きるのは無理って分かるだろうって」


 店長の姉夫妻の読み通り……かどうかは分からないが、約二年の活動で登録者数はやっと二桁になった程度。


大河たいがのヤツ、半年くらい前から心霊系を取り扱うようになったらしいんだが、そしたら動画の再生回数が伸びてきた……らしい。収益化はできるほどじゃないらしいんだが」


 大河とは店長の甥の名前。YouTuber名も本名そのまま「タイガ」


 他の心霊系YouTuberとも交流を持って、いろいろやってるらしい。


「ツイッター、いまはエックスか。それで廃村情報を募ったら”なごん村”の情報が届いたんだって。近場だから、車で行くって言い出したらしい」

「運転免許、持ってるんですか? 大河さん」

「姉夫が、高校三年の時に取らせた。表向きは”YouTuberは日本各地に行く可能性もあるんだろう”だけど、本当は”免許を持っていたほうが、就職しやすい”からと言ってたな」

「ご両親はいろいろと考えているんですね」

「そうみたいだ」


 廃村に行くのは危ないのでは? と店長は止めたが、あと一年でYouTuberとして、やっていけなければならないので「これに賭けている」と大河に言われた店長は、説得を諦めた。


 バイトが終わり、俺はいつものチェーン店に入り、パスタの中でもっとも安いメニューを頼む。

 給料日前なので金欠だ。

 贅沢なんてしていないのに、いつもだ。だからこうして、フリーWi-Fiで通信料を節約しなくちゃいけない。


 隣のベトナム料理店のWi-Fiが使えることを確認してから「なごんむら」を検索してみた――「清少納言と紫式部」がでてきたが、これが関係ないことは、俺でも分かる。


 変更していない通知音と共に「ここだけ、手軽ニ儲けられるはナし」――このところ、ひんぱんに届く、あやしい通知が表示されたした。


 必要ないところに、カタカナが差し込まれている、あやしさしかないメール。


 注文した料理が運ばれてきたので、箸を手に取る。


通知:1件 sacrificed to Tagon.


「英語の迷惑メールまで届くようになったか。迷惑メール報告して……」


 通販用に使っているフリーメールアドレスなので、面倒だけれど報告して少しでも迷惑メールが届かないようにしないと、あとあと面倒だ。

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