第10話・3回目の書き込み
メールに書かれていた当日、わたしは熊谷さんと、団体の男性職員と共に、浪川麻衣子さんとの待ち合わせ場所に行った。
でも浪川麻衣子さんは、現れなかった。
「メールが返ってきます」
「アドレスを消したようですね」
事情を聞こうとメールを送信したが、浪川麻衣子さん側のアドレスがなくなっているらしく、届かなかった。
「わざわざ、ついて来てくださったのに」
入店時以外に二回オーダーして二時間ほど待ったが、これ以上は迷惑なので店をあとにした。
店外に出て頭を下げるが、
「気にしないでください。わたし自身、気になっているので」
「あの」
「前に言った通り、もっと頼ってくれていいんですよ」
浪川麻衣子さんと会うときに、付きそってもらった日以来、直接は会っていないが、メッセージでのやり取りはしていた。
熊谷さんは忙しいようで――NPO法人のホームページに、ボランティア募集と書かれているので、新社会人の肩書きがとれたら、ボランティアに参加しようかと考えている。
「あら! あの時の!」
仕事帰りに、近所のスーパーに立ち寄ったら、あの日わたしを励まして、香典を包んでくれたおばさんと再会した。
「あの時は! あの……葬儀は無事に終わりました」
「そう良かったわ」
「あの! 香典返しを」
「要らないわよ」
「でも」
「またスーパーで会ったら、話し掛けて頂戴。わたし、話すの好きなのよ」
わたしの周囲は劇的には変わらないし、この先も変わらないと思う。でも――少しだけ変わった。
出来ることなら、あの子もこの変化を感じて欲しかった。
「……お盆にナスとかキュウリとか、迎え火とか……」
そういうこと、したことがないけれど、今度してみよう。
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308 弥生
以上になります
皆さんご協力ありがとうございました
309這い寄る混沌
わざわざ報告ありがとうね
310這い寄る混沌
友達のこと引きずらないように
でも忘れなくていいんやで
311這い寄る混沌
友人の葬儀なんかをしてくれた
大人と交流がうまれてよかったね
やっぱり頼れる大人がいるのと
いないのとでは大違いだよ
312這い寄る混沌
おれは大人だけど
まったく頼れないぜ!
313這い寄る混沌
人々に頼られる大人になりたかった人生だった
314這い寄る混沌
またなにかあったら書き込んでくれ
書き込まなくてもたまに見に来てくれ
そしていつか
弥生さんのように困っている子が書き込んだら
わたし含めたみんなのように
ゆるくアドバイスにもならないようなアドバイスを書いて
わいわいしよう
315這い寄る混沌
314の言う通りだけど
こんなとこ
来ないに越したことないけどな
316這い寄る混沌
去る者は追わないけど
たまに深淵をのぞいていいんやで
おれたちが深淵やけど
317 弥生
そうですね
また何かありましたら
まっさきにこちらにお邪魔します
それでは本当にありがとうございました
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