十九歳女装男子、別に恋はしたくない

紫陽_凛

すでに始まっちゃっている俺のヘキ

「うっそ⁉ 男の子なの?」

「そーお! 男の子なの~!ね~?」

「……やめてよアネキ。そうゆうの無しにして」

「恥ずかしがり屋さんだなぁもー! 可愛いんだからもっと笑顔・笑顔!」

 

――あれは五年前だ。

 姉に女装させられてお揃いのコスプレさせられて、「似合う似合ういいよ~!」って言われながら写真撮られた「コスプレ併せ」とやらから五年経った。会場を後にした時、俺の中に残ったのは気恥ずかしさや疲れ以上に、「可愛い」という言葉だった。


 可愛い。可愛いね。可愛いね……。



 当時十四歳。これといった趣味もなく特技もなく、それでいてぶっちゃけ退屈していたから、俺はその言葉にずっぷり、どっぷり漬かってしまった。もちろん、可愛いのなんか、姉が俺に施した魔法だ。魔法が解けた俺はただの中学生。だから。


 アネキの化粧品を勝手に使って勉強した。バレてはいない……と、思う。


 下地、クリーム、ファンデ。マスカラにアイシャドウ。最初は歌舞伎かよ、みたいな出来だったけど、だんだん慣れてくると、姉によく似た顔に化粧が映えるようになった。Yチューブを漁って、顔の頬骨が気にならない髪型を検索したり、ブルべかイエベかを自己診断してみたり……。

 流石にリップや口紅は自分で買ったよ。彼女に買います、みたいな顔して。


 五年。

 五年の間にアネキは何人か「理解ある」彼氏を作ったし、俺は高校に入学して卒業した。今は一人暮らし、自炊に、バイトに、大学生活に追われながら――。


 今日もムダ毛を剃る。風呂上がりにはボディクリームなんか使ってみたりして。

 化粧はカバー力の高いものを、眉は剃って描いて、リップは毎日好きな色。ウィッグはお決まりのショートボブ。インナーカラーは水色で。


 ――夜が来るたびに俺は「女の子」に変身する。


 十九歳、俺。今日もニーハイを穿く。

 どれもこれも、「可愛いね」って言われたいからだ。

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