第三一話 実験の結果は


「――今回の実験は、成功、ということになるんだろうな」

「えっ? てことは、皆のパラメーターが?」

「あぁ。試合に参加した全員のそれが向上している。しかし……」


 上昇値が低い。

 そういうことをしたときに比べて、およそ五分の一程度の上昇でしかなかった。


「意味のない実験、だったのかしら?」

「いいや。むしろ逆だ」


 今回の実験では実に多くの収穫があった。


 そこについて、俺は思索を行う。


 まず一つ目。

 強化行為プレイの際に見受けられる刻印の発光が、今回は確認出来なかったことについて。


「件の現象は、《戦乙女ヴァルキリー》の強化を表したものではない……あるいは、未だ確認出来ていない要素と強化の要素とが、同時に発生した証なのか……?」


 考えても答えが出なかったため、次へ移る。


「エリザ。今回の実験では君がもっとも高い上昇値を示したが……疲労感はどうだ?」

強化行為プレイ後のそれを一〇〇としたなら、いま感じているそれは二〇以下といったところですな」

「ふむ……強化値こそ低めだが、その代わりに、数をこなせると言うことか」


 通常の強化行為プレイは日に二~五回が限界。しかしながら今回のような運動であれば、かなりの数をこなすことが可能となるだろう。


 しかも、大人数を同時に強化出来るとなれば。


「……今回のような複数人で行うスポーツを、一日のスケジュールに入れてもいいかもしれないな」

「うむ。皆のスケジュール管理についてはこのエリザにお任せを」

「あぁ、ありがとう」


 一つ頷いてから、俺は話を先へと進めていく。


「今回の実験で、強化値の変動要因がもう一つ、明らかになった」


 彼女等のパラメーターは誰もが一定値上昇するといったものではない。

 現在値が低い者ほど上昇幅が大きく、逆に現在値が高い者はあまり変動しないという特徴がある。


 今回の実験で、ここにもう一つ、新たな特徴が見受けられた。


「精神的な興奮度合い。これに伴って、パラメーターの強化値が高くなる」


 先程の試合においてエキサイトした者は、冷静で居続けた者と比較すると、上昇値が極めて高い。これは実に有益な情報であった。


「通常、世代が下の《戦乙女ヴァルキリー》の方が上の世代よりもパラメーターの伸びがいい」

「それは現在値が低いから、よね?」

「あぁ。だが今回の試合においては、激しく興奮した第五世代の方が、落ち着きを維持していた第七世代よりも高い上昇値となった」

「なるほど……この情報は我々のような世代が上の《戦乙女ヴァルキリー》達を効率的に強化しようとなった際、重要な意味を持つことになりますな」


 エリザのような第一世代は強化値が著しく低いのだが、そうした問題を解決する糸口が今回、見つかったかもしれない。


 ……まぁ、少しばかりの問題も孕んでいそうではあるが。


「興奮度によって上昇値が変動するとなれば」

「あぁ、今後の強化行為プレイについて、内容面を見直す必要がある」

「具体案はお有りで?」

「いや。そこについては、これから一考するつもりだけど……何か妙案でも?」

「うむ。是非とも試していただきたい事が一つ」


 獣耳をピンと立てながら説明を始めるエリザ。


「……とまぁ、そういった塩梅なのですが、いかがですかな?」

「うん。良いアイディアだと思う」


 肯定の意を返すと、エリザは一つ頷いて。


「話は変わりますが……わたしはこれより、会議に参加する予定でしてな」

「そうか。……その様子だと、俺も参加した方がよさそうだな」

「えぇ。なにぶん、極めて重大な内容を話し合う予定でおりますから」

「……その内容、事前に聞いておいてもいいか?」


 問いに対し、エリザは一つ頷いてから、こう答えた。


「《邪神》の討伐。これについて、拠点の幹部達と意見を交えていただきたく」


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