第二四話 殺すしかないのか


 かつてこの世界には、グールという魔物が存在していたという。


 ひとりでに歩き、生者を襲う亡骸。

 恐怖も痛みも感じることなく、頭部を破壊しない限り止まることはない。


 そして奴等に噛みつかれた者は、即座にグールへと変じてしまう。


 ――《眷属》とは即ち、グールに近しい存在であった。


「リゼ……! リゼ、だよね……!?」


 汗を流しながら呼びかけるシャロン。


 相手方はチラと彼女を目にして、


「お前は最後に殺してやるっス。ほっといても問題なさそうだし」


 無情な言葉が返ってくる。


 きっと二人は本当に親しい間柄だったのだろう。


 しかし、もう、リゼという少女は居ない。


「やだ、よ……! リゼ……! どうして、こんな……!」


 ポロポロと涙を零し、唇を震わせるシャロン。

 そんな彼女に、思うところはある。

 だが……感傷に浸ることは、許されない。


「シャロンはもう戦えそうにないわね」

「あぁ。俺達でやる」


 心を鬼にしなくてはならない。

 奴等と戦うには、それが必要なのだ。


 一呼吸して、覚悟を決める。


 その瞬間。


「んじゃ、行くっスよぉッ!」


 踏み込んでくる。


 これに対しソフィアもまた前進。


 彼女が近接戦に応じ、俺が後方にて援護する形となった。


「りゃあッ!」

「シィッ!」


 刃を交わせる両者。

 金属同士の衝突音が響き渡る中、俺は戦況を注視した。


「……技量、スペック、共に互角か」


 敵のベースとなったのはリゼという《戦乙女ヴァルキリー》である。


 世代はおそらくシャロンと同様、第七世代あたりであろう。


 彼女等は非戦闘員であるが、しかしその基礎能力は常人の比ではない。


「《戦乙女ヴァルキリー》が《眷属》となった際のスペックアップ……! これは、脅威としか言いようがないな……!」


 第七世代でさえ、原初にして最強であるソフィアに肉薄出来るのだ。

 上の世代がそうなってしまったらどんな怪物に変じるのか、想像もしたくない。


「リゼ……」


 耳に入ったシャロンの悲痛をあえて受け流し、思索を巡らせていく。


 奴は今、大技が使えない状態にある。

 もしそれが可能だったのなら、とっくに使用しているはずだ。


 とはいえ、それは現状の話でしかない。


 あの機関銃マシンガンによる掃射能力はクールダウンを終えると同時に、奴の手元へ帰ってくるのだろう。


 もしそうなった場合、極めて厄介なことになる。


 俺とソフィアは生還出来るかもしれないが……シャロンは対応出来ず、命を落とす可能性が高い。


 そんな結末を防ぐためにも、短期決着に持ち込む必要がある。


「ステップ、ステップ、静止……」


 動きを観察し、クセを読み取っていく。


 そうしたインプットは速やかに完了。

 あとは不意を打つ形で攻撃魔法を直撃させ、それによって生じた隙をソフィアに突いてもらえば、その時点で片が付くだろう。


「今だッ……!」


 絶好の機会。


 魔法の発動――


 その直前。


「うぅっ」


 すすり泣くシャロンの声。

 それが胸中に迷いを生じさせた。


 殺していいのか? 本当に?


 一瞬の躊躇。

 だが敵方にとってそれは、十分な隙として映ったらしい。


「まず一つ」

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