第九話 夜半。爆乳を擦り付けてくるエルフ。そして――


 大きな瞳に不安が宿る。


 そんな姿を見ていると、なんだかこちらも切ない気持ちになるのだが……しかし、俺はこのように返すしかなかった。


「ごめん。何も覚えてない。今の俺にとって君は、初対面の女の子だ」

「……そう」


 切なげに目を細めるソフィア、だが。

 あどけない美貌が悲壮に染まることはなく、むしろ彼女は毅然とした顔で断言した。


「思い出させてあげる。絶対に」


 強い決意を感じさせる言葉。

 それから彼女はツカツカとこちらへ歩み寄り――ギュッと、抱きついてきた。


 ――むにゅり。


 柔らかな感触が伝わってくる。


 前回はこちらの胸板に押し当てられた巨乳、だが、今は互いに立った状態である。


 俺とソフィアには結構な身長差があって、それゆえに……

 彼女の豊満な爆乳は今、下腹部に近いところで形を変えていた。


 も、もう少し下にズレたなら……!

 俺のアレに、おっぱいが……!


「な、なな、なに、を、してるの、ソフィア?」


 彼女は上目遣いでこちらを見つめながら、頬を真っ赤に染め上げて、


「あ、ああ、あんた、あたしにこうされるの、好き、でしょ!?」


 それから彼女はこちらの背中へ回した腕へ、一際強い力を込めた。


 すると必然、押し潰れたおっぱいの感触がより一層、強く伝わってくる。


「こ、ここ、子供の頃は、何かにつけてハグ、求めてたわよねっ!? あ、ああ、あたしとくっ付くのが、どうしてそんな、好きかは、しんないけどっ!」


 それはね、とても気持ちがいいからですよ、ソフィアさん。


 ていうかソフィアさん、ジッとしててくれませんか。


 恥ずかしさを紛らわせたいんだろうけど、そんなふうに体を揺さぶってたら……


 ぐにゅん。むにゅん。

 にゅっ、にゅっ。にちゅ~~~~。


 俺の腹筋をなぞるように、柔らかな爆乳がズリズリと擦られて、形を変える。


 そうしていると、彼女の体の一部……刺青めいた刻印が淡く光り始めた。


 黒髪の少女と同じ現象、だが、あのときとは違ってそこに対する興味は湧いてこない。


 爆乳の柔らかさと、布越しに伝わってくる、この突起物めいた感触。

 こ、これは、まさか……!


「んっ……♥」


 ソフィアが纏う衣服の生地は、透け感が強い。

 それゆえに彼女の状態が一目でわかる。


 膨らんだ桃色の先端を擦り付けて、興奮しているのだと。


 しかし、彼女は。


「な、なに、コレ……? なんか、変な感じ……」


 無自覚である。


 どうやら性的な知識があまりないようだ。

 初めての快感に心奪われ、半ば目的を見失っているような感じだった。


「んっ……♥ んっ……♥」


 顔を真っ赤に染めながら、夢中になって、俺の腹部に敏感なそれを擦り付ける。


 愛らしさといやらしさ。

 ソフィアの淫靡な姿に俺は稲妻を浴びたような衝撃を受け――


 次の瞬間、頭に強い痛みを覚えると同時に。


 目前の光景が、激変する。



『あ、あの。僕と一緒に狩りを――』

『やだよ。気持ち悪い』

『お前、母ちゃんから病原菌貰ってんだろ? 伝染うつったらどうすんだよ』


 孤独な幼少期。

 誰も手をとってはくれず、毎日毎日、独りぼっちで。


『ごめんね、オズ。私のせいで』

『大丈夫、だよ。それより僕の方こそ、ごめんなさい。僕、狩りが下手クソ、だから』


 飢えていた。

 病に伏せた母も。

 俺も。


『……どうして僕達ばかり、こんな目に遭うんだろう』


 己の境遇に対する呪詛が、他者への憎悪へと変じていく。

 それが俺の人格を蝕み、致命的な領域へと至る……直前。


『なぁにやってんのよ、あんた達っ!』


 俺は、彼女に出会った。


『寄って集って叩くだなんてっ! 喧嘩は一対一で、堂々とやりなさいよっ!』


 ソフィア・ノーデンス。

 彼女は俺の、救世主だった。


『あんたいつも一人で狩りに行ってるの?』

『う、うん。だから、取り分が少なくて』

『そう。じゃあ今日からはあたしが一緒に行ってあげる!』


 誰も取ってくれない、俺の手を、彼女だけは。


『オズってば、ほんっとに弱っちいわねぇ』

『う、うぅ……』

『まぁ、無理に強くなる必要なんてないわ。あんたにはあたしが居るもの』


 いじめられて泣くだけの俺に、彼女は輝くような笑顔を見せて、


『あたしがオズのこと、守ってあげる!』


 俺は、そんな言葉を、ずっと――



「――オズっ! オズっ! ねぇ、オズってばっ!」



 ソフィアの声が耳朶を叩く。

 と、目前の光景が元のそれへと戻った。

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