プロローグ(後編)


 魂に刻まれたソフィアの情報を復旧し、彼女の人格に肉体を支配させる。

 そのためには肉の器を通して魂を刺激しなくてはならない。


 方法論は二つ。

 極めて強い痛みを与えるか、あるいは……それと同レベルの快感を与えるか。


 相手方が特になんら関係性を持たない存在だったなら前者を選ぶことも出来た。

 しかし家族も同然である幼馴染みが相手となると、後者を選ばざるをえない。


「……すまないソフィア。蘇生が成った後、好きなだけ殴ってくれ」


 寝入る彼女の純潔を、これから奪う。


 まさに唾棄すべき所業だが、そうする以外に選択肢はない。


 俺は無理やり自分を納得させ、懐から一つ、瓶を取り出した。


 中を満たす桃色の液体は、極めて強力な媚薬である。


 ドロリとしたそれを自らの手に盛って、


「……やましい気持ちは、ない」


 心を無にしながら、俺は行為を開始した。


 まずソフィアの全身に媚薬を塗り込んでいく。

 最初は首筋。そこから肩、鎖骨へと広げていき、最終的に両腕部まで塗布。


 それから彼女の腕を掴んで、腋を露出させる。


 しっとりと汗ばんだそこからは、女のフェロモンが溢れ出ていて。


「腋は第二の性器……そんなことを、弟子の一人が言ってたな」


 当時はアホらしいと一蹴していたが、どうやら俺は間違っていたらしい。


 腋は、エロい。

 ソフィアのそれは特に。


「……馬鹿なことを考えるな。冷静になれ」


 一つ深呼吸し、心を落ち着かせ、腋に媚薬を淡々と塗っていく。

 そして。


「ここからが本番、か」


 平時にて触れてよい、ギリギリのライン。

 それを今、踏み越える。


 鎖骨のさらに下。

 そこには豊かに育ったソフィアの乳房がある。


 意図して触れたことなど一度すらないその膨らみに、俺は手を伸ばし――


 もにゅんっ♥


 掌に感触が伝わると同時に、全身を硬直させた。


「なんだ、これはッ……!?」


 柔軟性。

 客観的事実に基づけばそれだけで片が付く現象。


 しかし、この柔らかさは、そんな一言で表せるものではない。


「ッ……!」


 熱が込み上げてくる。


 それはまさに獣欲。

 極上の肢体を前にして、俺は心の暴走を感じ取っていた。


 しかし、止めることは出来ない。

 そもそも、止める必要もない。


 これは、そう。


「やらねばならない、ことだ……!」


 俺は両手で、ソフィアの豊満な乳房を鷲掴んだ。


 ぐみゅんっ♥


 二つの掌から、二つの柔らかさが伝わってくる。

 片手で触れたときと比較して、その快感は倍以上。

 気付けば俺は、その心地よさに取り憑かれていた。


 もにゅっ♥ もにゅっ♥ もにゅっ♥


 思うがままにソフィアの両乳を揉みしだき、柔らかな快感を享受する。


 ぬりゅっ♥ ぬりゅっ♥ ぬりゅっ♥


 塗りたくられた媚薬が淫らな水音を響かせ、こちらの興奮を煽る。


 彼女に刺激を与えるだけの行為として想定していたそれは、俺自身をも強く刺激し……

 下腹部に熱が宿り始めた頃。


「んんっ……♥」


 声。

 それは、俺の口から出たものじゃない。


 乳揉みの手をピタリと止めて、俺はソフィアの顔へと目をやった。


 ……動いている。


 さっきまで微動だにしなかった、その唇が。

 艶やかな呼気に合わせて、プルプルと、震えている。


「復旧、したのか……!? ソフィアの人格が……!?」


 目を大きく見開きながら、俺は彼女の両肩を掴んで、呼びかけた。


「ソフィアッ!」


 名を叫ぶ。

 それに反応する形で、うっすらと、彼女の瞼が開き始めた。


「おぉ……!」


 成功だ。

 死者蘇生は成った。


 当初はまで完全に到達せねば、人格の復旧は不可能だと踏んでいたのだが……どうやらソフィアの感度は常人を遙かに上回るものだったらしい。


 だからこそ、下準備の段階で終わらせることが出来たのだろう。


「よかった……! 本当に……!」


 強い安堵の情を噛み締めながら、俺はソフィアの銀髪を撫でた。


 今はしばし、余韻に浸っていたい。


 と、そんなふうに思った、矢先のことだった。


「――また、この場所か」


 第三者の声。

 それを耳にした瞬間、全身に怖気が走った。


「ッ……! 誰だッ!?」


 弾かれたようにそちらへ目をやり、誰何する。


 相手方は黒いモヤに覆われ、姿を正確に認識出来ない。

 隠匿の魔法を施しているのか。


「……目的は、なんだ」


 ソフィアを背にして油断なく身構える。

 そんな俺に、奴は。


「今より五年前。その時点においては何者でもなかった。そこらじゅうに居る、ただの村人。それが今や大賢者と呼ばれるようになった」


 黒いモヤに覆われた人物は、こちらを……いや、正確には俺の背後にて寝そべるソフィアを指差し、


「彼女が勇者と称されることには、なんら文句はない。だがオズワルド・メーティス。お前が大賢者とは、とんだお笑いぐさだ」


 挑発的な言葉だが、しかし。

 なぜだろう。悪意を感じない。


「……なんなんだ、お前は」


 問いかけに対し、奴は拳を握り固めて、一言。


「■■■■」


 認識出来ない声。

 それからすぐ。

 奴の全身にかかったモヤが晴れ――


「ッッ!?」


 奴の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


「何度でも■■■やる」


 奴は■■■■■■――

 奔流が放たれると同時に、その全身から■■■■■■■■■■■■■■■■。

 俺は■■■■■■を睨み、叫んだ。


「なぜ■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!?」


 応答は■■。

 俺■■■■■■■■■■■■■■して、■■■■■■■■■■■■■■。


「――っ!」


 いきなりの■■■■■■■■■■■■■■対応が■■■■■■■■■■■■■■。

 そして。


 目の前が、真っ暗になった。


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