戦乙女たちと築く元・底辺村人の最強ハーレム ~数万人の女に対し、男は俺一人~

下等妙人

プロローグ(前編)


 地下深くに建立された大神殿。

 その中心部にて。


 多くの弟子達が見守る中、俺は祭壇の前へ立ち……腕に抱いた少女の名を呟いた。


「……ソフィア」


 呼びかけたところで、反応が返ってくるはずもない。


 エルフ特有の白い美貌。

 その瞼が開くことは、もはや。


 ……されど、そうだからこそ今、我々はこの場に立っている。


「たとえ神の摂理に反していようとも、俺は……!」


 死者の蘇生と新兵器の開発。

 そのために今、我々はこの場に立っている。

 

 俺は皆に目配せをすると、祭壇にソフィアの亡骸を乗せて、


「成功の確信はない。命の危険もありうる。……皆、覚悟はいいか?」

「マスターと勇者殿に救われた命だ。失ったところで本望というもの」

「いまさら試すような真似すんじゃねぇよ。あんた等のためなら死んだっていい」


 彼等の応答に感謝の意を返しながら、俺は一つ頷くと、


「連れ戻すぞ。死神に囚われた魂を」


 現代魔法の粋。

 廃れきった古代魔法の再現。

 それらを組み合わせた魔法学の集大成。


 ――再誕の儀式を、実行する。


 弟子達と共に詠唱を始めたその瞬間、石造りの空間が淡く発光し始めた。

 地下霊脈から膨大な魔力を抽出し、祭壇に寝かせたソフィアの亡骸へと注ぎ込む。

 と、彼女の全身が煌めきに覆われ……純然たる魔力の塊へと変異した。


「肉体の崩壊を確認……! ここまでは仮説通りだ……! 後はこの《神核》が期待通りに働きさえすれば……!」


 掌に収まる程度の球体。黄金色に輝くそれへ魔力を注入し、自らの右手人差し指に嵌められた指輪型魔導装置へと意識を集中する。


 指輪が強い閃光を放つと同時に、《神核》が宙へと浮き上がった。

 それが膨大な魔力の塊に引き寄せられ、両者が結合した瞬間――


 凄まじい衝撃波が俺達の全身を打った。


「ぐっ……!」


 壁面に衝突し、苦悶を吐きつつも、俺は状況を注視し続けた。

 魔力の塊と《神核》の融合体はしばし不安定な様子を見せていたが、しかし、やがて落ち着き始め……そのシルエットを人のそれへと変えていく。


 虚空に浮き上がっていた煌めく人型は、やがて祭壇へと緩やかに落下し……

 表面を覆っていた輝きが、光の粒子となって弾けた。


「ソフィア……!」


 壇上にて眠る幼馴染みの姿に、俺は歓喜の声を漏らす。

 儀式を行う前、彼女の様子はまさしく屍のそれであり、生気など微塵もなかった。

 しかし、今は。


「勇者殿の肉体に、血色が戻られた……!」


 そうだ。

 彼女はもう屍ではない。


 生きている。

 間違いなく、生きている。


 そんなソフィアの状態を前にして、俺は昂揚感を覚えずにはいられなかった……が、



「喜ばれるには早いかと」


 弟子の一人が羊皮紙に記録を記しつつ、言葉を紡いだ。


「最後の関門を突破せねば、苦労の全てが水泡に帰することとなりましょう」

「……あぁ、そうだな。その実験記録には、成功の二文字を刻まねばならない。ソフィアのためにも、そして、後の世のためにも」


 気を引き締めながら、俺は彼女のもとへ歩み寄り、その姿を検めた。


 儀式の進行中に着せていた衣服が弾け飛んだため、今、ソフィアは裸体を晒している。


 透き通るような白い肌と、くびれた腰。

 呼吸に合わせて揺れ動く豊満な二つの丘。

 さらには……引き締まった下腹部や、その先にある茂みまで。


「相変わらずエッロい体してますねぇ、勇者サマは」

「……その発言、嫁に報告してやろうか?」

「ちょっ、それはマジ勘弁」


 隣で冷や汗を流す弟子に溜息を吐きつつ、俺はソフィアの体に表れた変異に意識を向けた。


「血色が戻っただけでなく、聖痕が刻まれてもいる。これはつまり」

「勇者殿は伝承に聞く最強の戦士……《戦乙女ヴァルキリー》へと生まれ変わったということですな」


 首肯を返す。


 肉体の随所に散見される刺青めいた痣。それは俺達が画策した新兵器の創造が成功した証となっている。


 だが、もう一つの狙いは、まだ。


「肉の器に魂を還すことは出来た。しかし……このままではおそらく、ソフィアが目を覚ますことはない」

「やはり事前に打ち立てた仮説通り、死者の蘇生には段階がありましたな」

「あぁ。魂を戻したところで、そこに刻まれた彼女を構成する情報を復旧させない限り、なんの意味もない。今のソフィアは命を持つ人形のような存在だ」

「ようやっと芽生えた逆転の糸口も、このままでは」


 まさに水の泡、ではあるが。

 無論、そのようにはならない。

 俺だけではなく、弟子達も皆、そう確信している。


「……これから次の段階を突破するための手段を、執り行う」


 決然と放ったこちらの声に弟子達は首肯を返すと、皆一様にその場から離れていった。


 一人、神殿の中に残される。


 これから行うことは別に、皆の目があると出来ないというわけではないのだが……

 しかしながら、彼等の存在は確実に、それをやりづらくさせるだろう。


「……これは愛する者を救うための崇高な儀式であり、人類の存亡にも関わる行為。よってやましいところなど微塵もありはしない」


 己に言い聞かせつつ、深呼吸し、覚悟を決めていく。

 ソフィアを真に蘇生する方法。

 それは――


 ――肉体的な、交わりである。

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