47:お久しぶりです

「みなさん、こんすふれ~!お久しぶりです!」

 配信を開始した直後、コメント欄にぽつぽつと流れ始める「こんすふれ~!」などの挨拶が嬉しい。

 来年は受験生ということもあり、ここ最近の夜は勉強している時間が増えて、なかなかライブ配信を行うことができなかった。本日、中間テストが終わったので、息抜きも兼ねて久々にリスナーさんたちとお話がしたいと思ったのだ。


『ましゅまろぽてと:こんすふれ~!久しぶり!』


 晴見くんからのコメントを見て、思わず笑みがこぼれる。

 あなたは久しぶりじゃないでしょ。

 交際し始めてから、風紀委員の活動がない放課後は二人で桜葉公園に寄り道して帰ったり、休日も一緒に出掛けたりしている。先週の日曜日には水族館へ行ったし、その前の週には晴見くんの家でゲームをした。


「いやぁ、一カ月振りくらい?ですかね。配信を待ってくれていた方、すみませんお待たせしてしまって。何分すふれはこれでも受験生でして、多分来年は更に配信頻度が減ってしまうと思われるんですが、待っていていただけたらすっごく嬉しいです!」

『待ってるよ!』

『受験頑張って!応援してるよ!』

『僕も来年受験生です!頑張りましょう!』


 コメント欄を流れる優しい言葉の数々に胸の奥が温かくなる。たとえ画面の向こうでも、私を待ってくれている人がいることは本当に幸せなことだ。

 それに嬉しいことに、久々の配信にも関わらず、リアルタイムで配信を見てくれる人は少し前と比べるとかなり増えていた。

 それに比例するようにチャンネル登録者数も増えており、どうして急に人気が──「人気」と言うのはおこがましいかもしれないけれど──出てきたのだろうと不思議に思う。


「そういえば、この前久しぶりに水族館へ行ったんですよ!最近リニューアルオープンして評判になっていた、××水族館さんなんですけど、リニューアルオープンしてから行った人いますか?

 知っている人も多いかもしれないですけど、ここの水族館、なんとシャチのショーが見られるんですよ!シャチのショーが見られる所って、日本ではここだけしかないみたいで……」

 先週、晴見くんとのデートで訪れた水族館だ。

 名物であるシャチのショーでは早めに会場へ行って前の方の席を取っていたのだが、ショーが始まって早々、シャチが水中に飛び込んだ際に私たちは二人して思いっ切り水を被ってしまった。


「もう全身すっごいびしょ濡れになって!それで、ショーの最中は席の移動ができないから、約20分間私たちはずーっとシャチに水を浴びせかけられてたのね。

 最初に気付けば良かったんだけど、前方の席に座ってる人たちのほとんどが雨合羽で防護してたの!めちゃくちゃ早く行って良い席陣取ってたのに……可笑しいよね。

 みんなもシャチのショーを見る時は雨合羽を着用することをお勧めします」


 水族館の話題の後は、晴見くんの家で一緒にプレイしたゲームの話をした。


「すふれ、ゲーム配信とかあんまりやらないじゃないですか。これにはちゃんと理由がございまして……いや、ゲームは好きなんですよ。だけどね、それ以上に下手くそ過ぎて……ゲームのジャンルとか関係ないの。ほんとに何やってもすぐに死ぬの。

 あはは……っ、笑えるでしょ。それで、今回はファントムナインっていう超有名な撃ち合い?のゲームをやったんだけど……」


 この時は晴見くんが手加減なしで私のアバターを殺しにかかってきたので、言うまでもなくすぐに決着が付いてしまった。

 だけど対戦相手とレベル差があり過ぎると面白くないので、オンライン上のプレイヤーと二対二のバトルをしたのだが、これは結構楽しかった。

 と言っても、始めたばかりで勝手の分からない私は晴見くんの周りをちょこちょこと走っていただけなのだが、晴見くんが強過ぎて一人で敵を倒してしまった。


 水族館もシューティングゲームも、その後にした遊園地や植物園の話も、全て晴見くんがいたから出来たことだ。もちろん、配信内では「誰と行ったか」は言わないけれど。

 けれど、リスナーの中にはやたら勘の良い人もいるようで……


『前に比べて随分フットワークが軽くなったんだね。まさかデート……!?』


 そんなコメントに少しヒヤリとした。

 幸いなことに以前多かった恋愛絡みの質問は今回はあまり見受けられなかったが、話す内容には注意したいと思うのだった。

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