十つ国統べる龍共よ
@SIGMA17046
第一章:神聖セントラリア皇国
プロローグ:〝天壌無窮〟のフェムト
遙か昔……世界にまだ国家はおろか〝文明〟さえも出来ていなかった時代。
星を作り、海や大地、そして生命を生み出した創造主は10匹の龍を生み出した。
彼女達は創造主より下界へと降り、世界を管理せよとの名を受け、それぞれに国を興し統治を始めた。
それぞれの種族を纏め国を統治する様子を見ていた創造主は、それはそれは満足そうにしていたのだが、不意に〝ある不安〟を抱くようになる。
それは〝人々が持つ欲望〟であった。
今は安寧を保ってはいるが、いつかその欲望により龍達に取って変わろうとする者が現れるのではないか?
もしくは龍達が自身が望まぬ結果を求めるようになるのではないか?
そんな不安を抱いたのである。
故に創造主は次元の扉を開き、そこにいた者に声をかけた。
そこにいたのは一匹の龍────〝彼〟は10匹の龍達が生まれる前に創造主により生み出された存在であり、下界で〝原初の龍〟と呼ばれている龍ではなく、真の〝原初の龍〟である。
しかし彼は如何せん強大過ぎた。
その強大さ過ぎるが故に存在するだけで世界に何かしらの影響を与えかねないと創造主が次元空間に封じる程に彼は強大過ぎた。
それ故に彼は今日までこの次元空間にて漂う事になった。
しかしただ封じた訳ではなく、創造主はちゃんと彼にも役目を与えていた。
それは〝次元空間を管理する〟といった役目であった。
次元空間が容易く開かれる事は無いが、いつ何時、何かの弾みで開いてしまうかもしれない。
そこで適任であったのが〝彼〟であった。
そんな〝彼〟に創造主は一言。
「フェムトよ。今直ぐに下界へと降り、お主の妹達の様子を観察、及び下界に住まう者達を監視せよ」
創造主のそんな声に〝フェムト〟という名の龍はその大きな眼を静かに開き、創造主の姿を捉え大きな口をクワッと開いた。
『ふわぁぁぁ……いきなりやって来るなり何を言ってやがるんだジジイ』
創造主に向かって〝ジジイ〟呼ばわりなど、彼に仕える天使達が聞いたら卒倒しそうな発言だったが、創造主はその事には気にしていないのか当然のように話を続ける。
「長い間お主の使い所が見い出せずに今日までこの世界に住まわせておったが、ようやくその使い所とやらが見い出せたのでな」
『俺が下界に降りたら世界が崩壊すると言ってここに放り込んだのはジジイだろ?なのにその俺を下界に降ろして大丈夫なのかよ?』
「それについてはもう問題あるまいて。なにせお主の妹達が尽力してくれたからのぅ」
『なるほど……まぁ、俺はその〝妹達〟とやらに会ったことはねぇんだがな』
「それは彼女達とて同じことじゃ。だからこそお主が適任なのじゃよ」
『あん?どういうこった?』
妹達には顔も、存在すらも知られていない自分が適任であると聞いたフェムトは訝しげに眼を細める。
「今やお主の十匹の龍達は人類にとっては崇められる存在……そんな彼女達の中から監視役など選出出来ようか。しかしお主ならば人類はおろか彼女達にも知られておらぬ……故にお主ならば密やかに下界の監視を務められるだろうて」
『別にこの神界で監視すりゃあ良い話じゃねぇか。なんたってわざわざ下界に降りる必要があるよ?』
「上から見た景色と現地から見た景色は全く違う……上からは見えぬ所も現地からであればよく見えるのでな」
『な〜るほどなぁ……まぁ、そろそろこの生活にも飽き飽きしてたところだし、ここいらで少し変わった生活を送るってのも良いかもな。それに……』
フェムトはそこで言葉を区切ると、まだ見ぬ下界の光景を思い浮かべているのか視線を宙に向け、目を細めながらこう言った。
『その妹達とやらが作った世界がどんなもんなのか興味があるしな』
「ならば支度をせい。ちなみに言うておくがそこから出る際は……」
『人間体でって言うんだろ?分かってるよそんな事は』
フェムトの龍としての姿はかなり巨大であった。
創造主の視界ではまるでイルミネーションのようにその色を変えながら虹色に輝く虹彩の端すらも顔の向きを変えなければ見えないほどだ。
それこそがフェムトという龍がどれ程強大な力を持っているかという証明であり、そもそもその大きさでは創造主がこの次元空間に入るために開けた穴を通れない。
そしてその強大な力が動く気配を感じながら、創造主はフェムトが目の前で人間体へと姿を変えていく光景を眺めていた。
人間体となったフェムトの姿は二十代の男性といった姿で、精悍ながらも何処か気だるそうな顔付きであった。
「やれやれ……力を抑えたと言うよりは、凝縮したといった方が良いか。力の抑え方は知っておろうな?」
「愚問だな。俺のこの頭の中にはジジイと同じくらいの知識が詰め込まれてんだよ。力を抑えるなんざ朝飯前だ」
フェムトはそう言うとそれまで身体から発せられていた力を瞬時に抑え込む。
これならば例え周囲の天使達がフェムトを見たとしても、それが次元空間に封じられていた龍である事に気付かないだろう。
そうして創造主と共に次元空間から出たフェムトは、あたかも狭い空間から出たかのように大きく背伸びをした。
「お〜〜〜、久しぶりの神界だ」
今の今まで次元空間にて惰眠を貪っていた故の鈍った身体を解すように身体中の節々を鳴らし始めるフェムト。
「……で、さっき妹達の様子見と下界の監視って言ってたが、具体的にはどうすりゃ良いんだ?」
「それは食事をしながらでも話し合う事にしようかの」
そうして神界にある食事場にて、フェムトは創造主と共に食事をとることとなった。
しかし創造主が肉や野菜などをバランス良く食べているのに対して、フェムトは肉や魚ばかりを口に放り込んでゆく。
「野菜も食わねば身体を悪くするぞ?」
「馬鹿言え。俺が身体を壊すようなタマかよ」
「まぁ……それもそうであったな」
そんな他愛も無い会話をしつつ、創造主は本題へと入る。
「それでじゃが、お主は下界にて龍であるとバレずに世界を旅して回って欲しい。出来るか?」
「簡単だ……と言いてぇところだが、断言は出来ねぇな」
「ほぅで何故じゃ?」
「龍だとバレねぇようにするには疑われないようにするしかねぇ。つまり下界では怪しまれねぇ、そこにいても何ら可笑しくはねぇ存在に扮しなきゃならねぇって事だ」
「確かにのぅ……」
「つー事で下界の様子を見せてくれや?何か良い案が思いつくかもしれねぇからな」
「そういう事であれば……」
創造主が手を翳すと、そこに何かの映像が映し出される。
それは下界の様子を映し出したものであり、そこでは下界に住む人々の様子が映っていた。
それを興味深そうに鑑賞するフェムト……そして彼はふとその映像を指差しながら創造主に問いかけた。
「こいつは何だ?」
「む?どれどれ……あぁ、これは〝旅商人〟と言うやつじゃな」
「旅商人ってのは何だ?」
「文字通り、各地を旅して回って商売をしている者達じゃよ。こういった者達がおるお陰で物流が盛んになっておるのじゃ」
「ふぅん……」
フェムトは相槌を打つと、ニヤリとその口角を上げる。
そして創造主に顔を向けこう言った。
「なら、俺はその〝旅商人〟ってのに扮するとしようか」
「ほぅ……旅をして回るのであれば冒険者でも良さそうじゃが?」
「冒険者ってのはアレだろ?魔物ぶっ倒して金を得てる奴らだろ?そんなもんになっちまったら旅どころじゃねぇだろ。旅商人ってのが一番気楽に旅して回れると思うんだよ。それに情報も集めやすそうだしな」
「ふむ……まぁそれもそうか。それではフェムトよ、お主は旅商人として世界各地を周り、妹達の様子見と下界の監視に務めるがよい」
「ちなみに期間はあるのか?」
「期間……か」
創造主は期間については特に設けようとは考えていなかった。
十数年ばかり期間を設けたところで、フェムトが神界に帰った後に問題が起きては意味が無い。
故に創造主はフェムトの質問に首を横に振って答えた。
「期間については設けておらぬ。いつ世界の均衡が崩れるか分からんのでな」
「創造主のくせに未来が分からねぇのかよ」
「創造主故にだからだ。確かに未来を視ることは出来る……が、視たとしても創造主たるワシが世界に直接干渉することは出来ぬからな」
「なるほどな〝神としての矜恃〟ってやつか?」
「そういう認識で良い。そういった事は他の者に任せる他ないからのぅ」
「ふん……まぁ、俺としては丁度良い暇潰しになるからありがてぇけどよ」
一通り食事を終えたフェムトは水を飲み干してから立ち上がった。
それと共に創造主も立ち上がりフェムトの前へと移動する。
「それでは今からお主を下界へと降ろす。とはいえ、人がおる所に降ろせば要らぬ混乱を招こう……故にお主の一人目の妹、〝
その言葉を合図にフェムトの足元が光り輝き、フェムトの身体はそれに吸い込まれるように徐々に下がり始めた。
「くれぐれもお主の正体が明かされぬように気を付けるのじゃぞ?バレてしまっては元も子も無い故な」
「分かってらァ。そんじゃまぁ、ちょいと行ってくるわ」
「うむ。妹達の事、そして世界の事を任せたぞ」
そうしてフェムトは完全に光に吸い込まれ、下界へと降りて行ったのであった。
(まぁ、降りたばかりではまだ何も変わらぬと思うがのぅ)
そんな杞憂を抱いていた創造主……しかし彼は一つ失念していた。
それは下界で流れる時間と神界で流れる時間とでは大きく違っており、神界での一日は下界では一年も経っているという事。
この失念が後に大きな事件へと繋がってゆくのだが、この時の創造主はもちろん、フェムトでさえも知る由もない。
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