ゲーム知識とチートのせいで物語の中心に引きずり込まれる主人公のお話。(旧題 ゲームと努力とチート。)

さんばん煎じ

プロローグ


幼い頃から僕は魔法に憧れていた。

魔法を使って何かをしたかった。


……その何かはまだ決まっていなかったが。 


ともかく、僕は魔法を現実で

再現するために、

たくさんの努力をした。


数学や理科の勉強をしたり、近くの図書館

に行って、自分が分かる程度の参考書や

論文を読んだりした。


分からないことは親に聞いたり、

辞書を引いて頑張って理解しようとした。


たまに自分がやっていることが

つまらなくなって、挫けそうになった時、

ゲームをしたり、小説を読んだりした。


これらは僕にとって、初心を思い出させて

くれたり、これからの道を示してくれた。


特に、「鏡映しの神話」は、長年やってきた

ゲームだった。


キャラと装備、やりこみ要素、ストーリー

どれをとっても豊富の一言に尽きた。


これが同人ゲームと知った時はとても

驚いたものだ。同じ情熱を持った人して、

とても誇らしく、とても温かかった。


今日は二日連続の雨だった。

梅雨の時期に入りかけ、天気が崩れ始めて

いた。


「そろそろ帰りますかぁ。」


本を閉じた中性的なボブの髪と

軽い化粧をした顔の少年がそう呟く。


中性的な見た目と合うように、

最近になって出て来た

ジェンダーフリーの服を着ていた。


彼、「矢月 宙」は今年大学一年生になる。

彼は魔法に対する情熱を使って、理数系の

推薦を志願し、大学に合格した。


要は大学から一目置かれたエリートである。


彼の将来的な目的はともかく、彼の

研究論文は高校生にしてはよく出来ていた。


具体的には水素エンジンの効率的な活用方法

など、ご時世に合った研究内容。


大学として、そのような政府に

アピールできる人材を逃すには少し

惜しかった。


……まあ、程々の知名度の

大学としては、だが。


それはともかく。彼はこれから

図書館を出て帰宅する所だった。


そして彼は例のゲームをやるつもりでも

あった。


「水素からでは限界があるな……。」


帰り際に彼が呟く。毎回、帰り道は決まって

魔法の事を熟考している。


自分が出した論文も、結局は彼の

魔法を再現するという目標の過程に

過ぎないのだ。


魔法を考える際の彼は、瞳がまるで

少年のように輝く。


その瞳には、現実の雑多な景色は

映らず、ただ一つの目標を見ていた。


だからであろう。人が止める声に気づかず、

彼が轢かれてしまったのは。


「止まってください!聞こえていますか!」


「止まって…「バン!!」っ!」


おおよそ人が想像できない、浮世離れした

痛みが彼を襲う。


肺から心臓へ、心臓からもう一つの肺へ。

連鎖するようにその衝撃は彼の

命を断ちにいっていた。


肺がある部分が凹む、恐らくあばらが

折れたのだろう。当たりどころが悪ければ

内出血や呼吸困難、さらには

心臓まで傷つけてしまうかもしれない。


少なくとも、酷いはねられ方をした以上、

助かる確率は低そうだった。


「痛っ……あぐぅっ…ぁ゙ぁ゙!」


声になり切らない悲鳴がする。

虚しくもそれは反対の車線の騒音に

掻き消される。


「大丈夫ですか!返事は出来ますか!」


一人の人間が駆け寄る。停滞した道路である

が、すぐさま飛び出す様は、必死に助ける

覚悟が現れていた、かもしれない。


その人間は彼を安静な体勢へと変え、

慣れたように救急車の搬送や容態確認を

行っていた。


「だずげでっ……。」


彼の言葉が力無く囁かれる。

その言葉は人間に届く。


「大丈夫よ。救急車を呼びました。

声を出さず、身体を動かさないように。

肺などの臓器にダメージがあった場合、

悪化するかもしれません。」


……それが正しい知識かは不明だが、

安心したのか、彼は意識を

手放してしまった。


その後、病院で死亡が確認された。

肺に深刻なダメージがあり、

骨が刺さり、穴が空き、呼吸が不可能に

なっていたという。


それらのダメージは心肺停止をおこし、

病院についた際には

もう息絶えていたらしい。


そうして、彼の人生は一区切りを迎えた。

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