第6話2008年4月
考え方が変わったのは明凛朱がお腹の中に存在してからだ。今自分がいる場所が、どれだけ危険で混沌としているか。急に視界が開けた気がした。アレックスは方々を布教や講演で駆け回っていて、パーソン邸や本部であるパーク内のエリアにはほとんど帰ってこず、たまに帰ってきても、ホテルの、あの施設の一室を貸し切ったり、パークの倉庫に籠ったり、パーソン邸のガレージで過ごすことが多かった。何をしているのか、気にはなっても聞くことはできなかった。ただ、床や壁に小さな赤いシミが何度か付着していて、黙って消したことを覚えている。表向きは人畜無害で、健やかに助け合って生きることを唱える団体だが、その裏で行われる儀式や、あのホテルの施設は、子供ができた私には受け入れられないものとなった。相談できる人もおらず、どうしていいかわからないでいたとき、
「最近元気がありませんね。お好きな布教活動もしないで、ようやく目が覚めましたか?」
そう声を掛けてきた人がいた。京一だ。もう一人の教祖と言われる彼が、そんな冗談を口にした、と思った。そのときは警戒して、何も言い返しはしなかったけど、それからしばらくして会ったときも、彼は、
「暗いですね。本当にどうしたんですか? アレックスに会いたい? それともお茶ですか? 僕ならどちらでも叶えてあげられますから、言ってみてください」
そう言った。試すような口調ではなく、ただ淡々としていた。急がなければいけなかった。だから陽乃は、ほとんど無意識に言っていた。
「子供ができたんです。でも、アレックスには知られたくないんです。彼は、何をするかわからないから」
京一は当然、驚いたようだった。だが、なぜか彼は協力してくれて、あのホテルの施設を一部屋貸し切って、面倒をみてくれた。アレックスは不在中だったが、極力このことを知る人がいないように、内密にして、そして陽乃と話し合ったすえ、陽乃の双子の姉に、しばらくの間、つまり、アレックスに退会を認めてもらうまでの間預けることになった。そして明凛朱が産まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます