第15話 助っ人見参

救われたかのように一葉が「あら、平田さんに胡蝶さん、ようこそお越しくださいました」と嬉々として応じる。しかし長吉が「おっと待ちねえ。こっちの話が先だ。お二人さん、すまねえがちょっと待ってくんな。いま取り込み中だ」と二人を制して一葉に居直る。

「おい姉さん、お隣様にもの申したくはねえが、店の女を勝手に引かれて黙っているわけには行かねんだ。確かに給金約束の奉公だが、それならなおさら勝手にゃ行かせられねえ。いいから黙って、返してくんな」堂の入った物云いに一葉が言葉を失っていると「失礼ですが報給の労働契約ですと仕事をするしない、止める止めないは本人の自由意志に任せられるはずです。近年発令された民法ではそう規定されている。雇用の強いはご法度になりますよ」と平田禿木がおずおずと口をはさむ。長吉の剣幕を刺激しないようにとする風がありありだ。しかし「誰でえ、おめえさんは。余計な口出しは無用にしてくんな。こちらの姉さん(一葉)が店の女を勝手に引いたんだ。そんなことをされちゃあ、あちらの商売が成り立たねえ。いまは女給だが先は遊女よ。いまの給金が元手のようなもんでえ」と凄む長吉にたたらを踏まされる。ところが馬場胡蝶がひょうひょうと「ああ、そうですか。普段からなにかあやしげな雰囲気を感じてはいたが、おたくはやはり売春もなさっていた。ははは。それはしかしおおやけになると、ちょっと困りはしませんか?鑑札はお持ちですか」などと云うのに「なに?…黙って聞いてりゃ」いよいよ長吉が啖呵を切ろうとした刹那「待ってください!旦那さん。わたし、もどります」とお島が口をはさむ。

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