第11話 好物からは目を離すべからず

「ここが帝国かぁ!!」


 全てがデカい、広い、豪華。大陸の盟主たる『デルソニー帝国』は世界一の国土と人口を持ち、技術力や経済力にしても世界的に先進している国と言える。


 そんな煌びやかな国に入ったわけは、王国へ護送しようとした奴隷商、オルフレッドが何者かに殺されたからだ。帝国内部の犯行という可能性は薄いが、何か情報があるのではと考えたのだ。


「グレンジャーと言ったな? 我々はこれから帝国軍の本部に向かう。この娘たちのことは任せたぞ」

「了解であります」


 彼女の名は『アリア・ナタリー』で17歳の若さで王国騎士団に所属している超エリートだ。

 騎士団とは、王国軍の中でも狭き門を突破して、英才教育や訓練に耐え抜いた者しか配属が許されない、言わば超公務員といった感じだ。


 偏見や差別といった意味ではないのだが、特に獣人で入隊できる者はもっと少ないだろう。


「ううむですニャ」


 相変わらず私を「奴隷商の仲間では」と疑っているこの猫娘は『ミア・ナタリー』だ。正真正銘アリアの双子の妹で、彼女もまた騎士団の一員だ。


 まったく、持っているものが違い過ぎて笑えてくる。


「あの、私たちはこれからどうすれば……」


 そうだった。騎士団の二人が帰ってくるまでは彼女たちの面倒を見なくては。


「とりあえずお腹減らない? せっかく帝国まで来たのだし何か食べようよ!」


 それを聞いて、皆の顔色が少し良くなったような気がする。

 でもその前に、この服をなんとかしなくちゃな。

 私は連れ去られた時のままだから良いとして、彼女たちは長くあの牢に居たのだろう。衣服がボロボロになっている。幸い金も奪われずに済んだし、街にはブランドのお店がひしめき合っている。


「綺麗なお店に入るにはマナーが必須なのよ。ということで、ショッピングに行こうか」


「本当にどれでも良いのですか?」

「ええ、私からのプレゼントだから遠慮せずに選んでね」

「「「はい!」」」


 良い返事だ。

 三人分の服なら余裕で買えるし、どうせなら好きなものを選んでもらおう。


「見てくださいこれ!」


「これも素敵」


「似合うかなぁ……」


 目をキラキラさせながらショッピングを楽しんでいる三人の姿に、隠れた母性本能が芽生えそうだ。

 しかし、事件は支払いの時に起こった。


「申し訳ございませんが」

「ま、まさか王国貨幣は使えませんか?」

「いえ使えないというか、王国貨幣ですとお釣りがお渡しできないのです」


 ここで「なんだそんなことか。釣りは取っておきな」って言えたらめちゃくちゃカッコよかったのだけど。


「なんですとぉ!?」


「換金所がすぐ向かいにありますので、よろしければ……」

「行ってきます! 皆待っててね!」


 数分後――。


「お待たせ、ってあれ?」


 店員さん以外誰も居ない。店の周辺にも見当たらない。


「先程の者ですけど、皆どこに行きましたか?」

「奴隷の子たちなら軍人様が連れて行かれましたけど、一緒ではなかったのですね」


 あ、これ誘拐?

 てか店員さんの防犯意識低スンギ!!


 焦った私は店員さんの肩をグリグリ押して、どの方向に向かったかを聞き出した。ケチらず王国貨幣で払っておけばこんなことにはならなかったはず。


 しかし、走れど走れど見つからず、本当に騎士が連れている可能性も考え、体力の無い身体を揺らしながら帝国軍本部までやって来た。


「何用かな?」

「ここに奴隷の女の子が三人、来ていませんか?!」

「見ていないなぁ」


 マジか。これはやったかもしれん。

 馬車に乗っているとすれば、もう国外に出ていてもおかしくはない頃だ。もしまた暗くて狭い場所に監禁されているとすれば悔やんでも悔やみきれない。


 何がなんでも探してやる。


「それでは、ここに王国騎士団のアリア・ナタリー殿はおられますか?」

「アリア? 知らねぇなぁ」

「いえ、来ているはずです。探して呼んでもらえませんか?」


 私があまりにもしつこかったようで、彼は面倒臭そうに頭をポリポリと掻いた。


「緊急事態なんです。早くしてください!」

「うるせぇなこのアマ!」


「グレンジャー何してるニャ?」


 門番の男が木丈で私を殴ろうとした瞬間、ミアがその腕を掴んだ。やられてもやり返すくらいの覚悟はあったが、犯罪者にはなりたくないから良かった。


 そんなことよりも奴隷の少女たちの行方だ。

 ミアに事の顛末を伝えると、一緒に探してくれることになった。門から離れた間際、ミアは門番の男に威嚇をして見せた。


「グレンジャーはこんなんだけど、人を殺したことがあるんだ。アタシが来てなかったら君、死んでたよ? ですニャ」


 この子、普通に喋れるんだ。

 

 聞くところによると、アリアはまだ本部内におり、色々と会議やら何やらで忙しいらしい。ミアが手伝ってくれたのも、暇を持て余していたからであり「奴隷を助けたい」という気持ちはそこまで無いようだ。

 

「アタシは騎士なのニャ。闘うことしか脳が無いのニャ」

「騎士様の中にも清廉な人は多いと思うけど」


 いや、そうでもないか。私は例の帝国騎士を思い出して、心の中で前言撤回した。


「攫われたとすれば、地下に行くしかないですニャ」

「地下? 帝国には地下もあるのか?」

「下水道のことニャ」


 どの冒険者も必ず、ギルドで登録したその日に『冒険者のすヽめ』という本を渡される。その中には冒険者に必要な心構えや、ダンジョンの基本的攻略方法、持っていると便利なアーティファクトなどなど、ありとあらゆることが記載されている。

 

 その中の一節に、「適正やスキルを持たない者は魔力が込められた『魔法の巻物』を持っておくと便利でしょう」とあった。確かその巻物の種類は多岐にわたり、攻撃系だけでなく探索に便利な物もあったような。


「魔女の店に行こう」

「え?! なんで急にそんな物騒な所に行くんだニャ!」

「物騒って……」

「魔女は猫を良いように使って、歳を取れば簡単に捨てる悪党共なのニャ!」


 猫耳族って猫ではないじゃん。という言葉はな面で差別用語となりそうなので飲み込んだ。


「探索に巻物が必要なんだ。店の外で待っていて良いから」

「なんだぁ、探索の魔法なら得意ですニャ」



「……さっさと使わんか、この馬鹿猫がぁ!!」




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