LostYouth〜こころのありか〜
アカツキ千夏
Prologue
ある雨の降る日。何かから逃げる様に彼女は無我夢中で走る。感じるものは無音。それはなぜか、偶然にも再会した元恋人が結婚していたからだ。特に珍しい事ではない。十年も音信不通となれば当然。だが問題はそこではない。恋人だった彼は彼女の事を忘れていたからだ。
失った青春を。雨の降る水曜日。もう一度、恋をしよう。
何かが音を立てて崩れていく。びしょ濡れで帰宅した彼女。靴を脱ぎ足早に廊下を進む。決して広くないワンルームマンション。棚に飾られた写真を枠組みから無造作に取り出す。高校生だろうか、制服を着た男女が笑顔で映っている写真。その笑顔が悔しくて、悲しくて、その場にしゃがみ込む。声を殺したわけじゃない。ただ声に成らなかった。そんな状態で何度も叫んだ。何度も、何度も、彼の名前を呼んだ。
涙がいくつも溢れ、濡れた髪から滴る水滴との区別がつかない。その水滴は幾度となく写真に落ちる。手にした写真は多量の水分を含む。インクが滲み、写真は原型を失っていく。
「何で、どうして…」
『…頭が、パンクしそう』
『何がいけなかった?何を間違えた?こんな事なら好きになんて、ならなかったのに。今更、友達に戻れるほど私、器用じゃないよ…』
降り続く雨はまるで、まるで彼女の現状を表すかの様に激しさを増していく。そして彼女は運命を酷く、酷く、憎んだ。
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