第21話 モブ兵士、ぶっ飛ばす
「シルヴァ、大丈夫?」
「ん?」
「アレンは……本当に強い」
シャルたそは、顔を伏せながらそう言った。
ここは勇者学園の敷地内。その中にある実戦訓練場を、俺たちは勝手に使うことにした。
人目につかず暴れられる場所が、ここしか思い浮かばなかったからだ。
「んー……ま、なんとかなるだろ」
向こうにいるアレンに視線を向ける。
確かに、やつは強い。シナリオ的にはまだ序盤だろうけど、すでに二級勇者程度には育っていることだろう。ゲームでも、上手く立ち回れば在学中に特例で勇者の資格を得ることができるし。
「私のせいでこんなことになって、本当にごめん」
「シャルたそが謝る必要なんてないよ。……謝るべきなのは、アレンのほうだ」
アレンの鼻をへし折り、シャルたそに誠心誠意の謝罪をさせる。
それが、この戦いにおける俺の目標だ。
「……シルヴァを応援する。だから、勝ってほしい」
「ああ、任せろ」
そうして俺は、シャルたそから刃を潰した訓練用の剣を受け取った。
「門兵、準備はいいか?」
「いつでも」
アレンから、強烈な敵意のこもった視線を向けられる。
これは、言わば同族嫌悪というやつだ。
俺は
「頑張ってください、アレン」
「魔族なんかに負けないでよ!」
恋人たちの声援を受けて、アレンは表情を引き締める。
「……三人がかりじゃなくていいのか?」
「なんだと?」
「俺のことを魔族だって疑ってるんだろ? それなら勇者として、全員でかかってきたほうがいいんじゃないか?」
「馬鹿にするな……! 卑怯な手段でシャルルを弄ぶようなやつは、必ずこの剣で斬り捨てる!」
「……そうか」
互いに剣を抜く。
どこまでも、おめでたい頭をしているらしい。
「……行くぞ!」
剣を構えたアレンが、俺に向かって跳びかかってくる。
そうして振り下ろされた剣は、単調な軌跡ではあるものの、日々の訓練で洗練されているのを感じた。
ただ、これで仕留められると思っているなら心外だ。
「なっ……」
俺が紙一重で刃をかわすと、アレンは驚いた表情を見せた。
俺の予想通り、初撃で仕留められると思っていたらしい。なんとも浅はかな考えである。
――――てか、髪ちょっと斬れたんだけど。
髪の毛の一部が刃にかすり、宙を舞った。これはつまり、アレンの剣が
こっちは訓練用の剣を使ってやってるのに、向こうは本気で俺の首を取ろうとしているらしい。
「……上等だ」
空いている手で拳を作り、アレンの顔面目掛けて放つ。
目を見開いたアレンは、とっさに腕でそれを防いだ。
「ぐあっ⁉」
しかし、勢いを殺すことはできず、そのまま数メートル後ろへ転がった。
「お、重い……」
アレンは、腕を魔力で覆うことで拳を防いだ。
でなければ、今頃その腕は使いものにならなくなっていただろう。
「魔力強化くらいできるか、感心感心」
「お前……! やっぱりただの門兵じゃないな⁉」
俺から立ち昇る魔力に気づいたのか、アレンがそう叫ぶ。
魔力を扱える者は、一握り。勇者や、騎士団上層部――――扱える者は、皆等しく高い地位につく。魔力が扱える門兵など、本来であればあり得ない。
「悪いけど、こっちはちょっとした〝例外〟なんだよ」
そう言いながら、俺は剣を投げ捨てる。
「ど、どういうつもりだ!」
「ハンデだよ、女たらし。お前が相手なら、こんなもの必要ない」
――――どうせ斬れねぇし。
「っ! ……舐めるな!」
剣に魔力をまとわせ、アレンは俺に向かって思い切り突き込んでくる。
いくら俺の魔力強化が洗練されていたとしても、同じく魔力強化された剣を生身で受け止めることはできない。
俺は体を傾けるようにして突きをかわし、アレンの懐に入りながら肘を叩き込む。
「ごっ――――」
重たく鈍い音がして、アレンの体は勢いよく後方へと吹き飛んだ。
「アレン⁉」
「あのアレンがぶっ飛ばされるなんて……!」
訓練場の壁に叩きつけられたアレンは、激しく咳込みながら立ち上がる。しっかり体を魔力で覆っていたため、大事には至らなかったようだ。
ブラジオのときとは訳が違う。
「はぁ……はぁ……くそっ!」
自分を奮い立たせ、アレンは剣を構え直す。
そして、さらに多くの魔力を体に纏わせた。
「相手は魔族なのに、油断した……! 今度は本気で行くぞ!」
「……さっさと来い」
地面が爆ぜる音がして、アレンの姿が消える。
強化された脚力による超スピード。大したものである。
そう感心しながら、俺はわずかに頭を下げた。
すると、その頭上をアレンの振った剣が通過する。
「なっ⁉」
「見えてんだよ、こっちは」
アレンの胸ぐらをむんずと掴み、そのまま地面に叩き落とす。
背中を強く打ったアレンは、悶絶した表情を浮かべた。
「かはっ……!」
「ほら、こんなもんか?」
俺は拳に膨大な魔力をまとわせ、大きく振りかぶる。
アレンの顔が恐怖に染まる。
俺はその拳を、アレンの顔面目掛けて振り下ろした。
「ひっ⁉」
アレンがとっさに頭を動かしたことで、俺の拳は訓練場の地面を叩く。
すると、訓練場全体に轟音が響き、地面には深い亀裂が入った。
「……しまった、ちょっと力み過ぎたか」
「はぁ……はぁ……!」
隙を突いて、アレンが離脱を図る。
俺はそれをあえて見逃し、距離を取らせた。
「な、なんなんだ……お前!」
「何度も言ってるだろ、街の門兵さんだって」
俺がそう告げると、アレンの顔が大きく歪んだ。
「お、オレは……! シャルルを取り戻さないといけないのに!」
「……シャルたそは、元々お前のものじゃねぇよ」
「うるさい! オレたちは強い愛で結ばれてるんだ……! 絶対に、引き裂かれたりしないんだ!」
「っ!」
――――その台詞を、まさかこんなところで聞くことになるなんて。
ラスボスとの決戦で、アレンがくじけそうになっている仲間たちに告げた、ちょっとクサくて、熱い名台詞。決して、こんなところで吐いていい台詞じゃない。
「がっかりだよ、アレン」
再び拳に魔力をまとわせると、アレンの顔が引き攣った。
「ただの門兵のくせに……なんなんだよ、その魔力は……!」
「シャルたそを悲しませたお前には……しかるべき制裁をくれてやる」
「まっ――――」
先ほどのアレンと同じように、俺は一瞬にして距離を詰める。
アレンは俺の速度に反応できなかったようで、ただ茫然と、自身に迫る拳を眺めていた。
「――――歯ァ食いしばれ」
俺の繰り出した拳は、アレンが身構えるより速く、その顔を力強く打ち抜いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『あとがき』
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